地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第259回 山下暁美さん:「琉神マブヤー」と「東北合神ミライガー」

筆者:
2013年6月22日

地域に根ざしたローカルヒーローについては、これまでに第26回「方言キャラクター」第108回「大分のローカルヒーロー「PCO」」第208回「『方言トランプ』あれこれ」でとり上げられています。

(画像はクリックで拡大)

【写真1】
【写真1】琉神マブヤーのお守り
【写真2】
【写真2】琉神マブヤーシール

ローカルヒーローたちは、子どもたちを主な対象としている点、地域に根ざしている点でほかの方言グッズとは特徴を異にしています。また、「郷土愛」を育むことをヒーローの第一目標にしています。中央を模倣したヒーローが各地を巡演するのではないことから、ローカルであることの誇らしさがヒーローから感じとれます。

沖縄のヒーロー「琉神マブヤー(沖縄の魂)」も沖縄で守るべきものの第一に「ウチナーグチ(沖縄方言)」をあげています。ほかにテーゲー(おおらかさ)、エイサー(太鼓に合わせて踊る伝統の盆踊り)、チャーガンジュー(ずーっと健康、元気)、イチャリバチョーデー(出会えばみな兄弟)、トートーメー(位牌、先祖)など、沖縄の大切な文化を琉神マブヤーは守ります。悪の軍団には、マジムン(沖縄方言で魔物、化け物の意)という名前がつけられています。

琉神マブヤーが悪の軍団マジムンと戦うときは「タッピラカス(叩きのめす)」と気合をいれます。また、必殺技は「スーパーメーゴーサー(超ゲンコツ)」です。悪の軍団にクーバー(蜘蛛くも)がいます。退散するときは「ヒンギレー(逃げろ)」と言って逃げます。

震災後(2012年)、東北6県の力を集結させた「東北合神ミライガー」が出現しました。東北合神ミライガーは、それぞれの県のヒーローのもとで修業を積み、「一致団結・東北六剣」をモットーにしています。どのヒーローもそれを取り巻く悪の軍団も方言を使用している点で共通しています。

制作者の有限会社 エフツーゾーン(//f2-zone.jp/)と株式会社マブイストーン(//www.mabuyer.com/)に伺ったところ「地元感覚と教育的な視点を必ずふまえる」という点を信条としているとのことです。悪の軍団はヒーローと方言で掛け合いを行い、時には、会場の子供達にも方言で話しかけます。わからない方言が出てきた場合には、ショーが終わって家に帰り祖父母に言葉の意味を尋ねると、孫と祖父母との間の会話に一役かうとのことです。

琉神マブヤーのお守り【写真1】と琉神マブヤーシール【写真2】は購入して写真を撮りました。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 山下 暁美(やました・あけみ)

明海大学客員教授(日本語教育学・社会言語学)。博士(学術)。
研究テーマは、言語変化、談話分析による待遇表現、日本語教育政策。在日外国人のための「もっとやさしい日本語」構想、災害時の『命綱カード』作成に取り組んでいる。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

『書き込み式でよくわかる 日本語教育文法講義ノート』 『海外の日本語の新しい言語秩序―日系ブラジル・日系アメリカ人社会における日本語による敬意表現』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。