更埴市と戸倉上山田町が合併して誕生した千曲市で、方言による命名の和菓子を見つけました。その名は、「さんちょ」。
商品に添えられたお品書きには、次のような説明があります。
山々に囲まれた信州で、山の中のことを さんちょ と言っていました。
そんな信州の山中、さんちょで採れた胡桃(くるみ)と山芋をたっぷりと使って焼き上げ、口溶けの良い高級和三盆糖で包んだお菓子です。
「さんちょ」と名付けた理由について、考案者の大久保寛さん(御菓子司・青柳 取締役会長79歳)は、「信州と千曲市の文化や魅力を詰め込むつもりで、山の材料を使ったので、地元のお客さんに親しみを持ってもらえるように」と、おっしゃっています。
「さんちょ」という語について、方言集では、
サンチョ……山中の音読。信州にはこの語弊が多い。サンチョーとも言う。
(『上田附近方言調査』明治40年)
と、説明しています。確かに、「ユ・キュ・シュ・チュ・ジュ」などの音が、「ヨ・キョ・ショ・チョ・ジョ」となるのは、この地域の発音上の特色です。
地元在住の方の手になる方言集(若林延二氏『屋代の方言集』昭和63年)にも、
冬……フヨ 中学校……チョオガッコ
灸……キョ 庵主様……アンジョサマ
旬……ション
のような用例が載っています。
ただし、若い世代ほど、このような発音はせず、u→oといった変化は起こらなくなっています。
「さんちょ」が今後に継承されるかについては、第25回全国菓子大博覧会・茶道家元賞受賞(2008年)という、「実力」に期待しましょう。