意味の変化
2009年 3月 9日 月曜日 筆者: 重藤 実クラウン独和辞典―編集こぼれ話―(42)
言語は時間とともに変化する。単語の意味も、変化を免れることはできない。
言語がなぜ変化するのか、完全に解明されているわけではないが、ファッションと同じように、常にインパクトのある表現が必要とされることは明らかである。新しい言い方にはインパクトがあり、たとえば「現代風で魅力がある」ことを示す言葉は「ハイカラ」「ナウい」「いけてる」「クール」など次から次へと生まれる。ということは、古い言葉は次から次へと意味が薄れ、インパクトを失って廃れていくのである。今では、「ナウい」などという言葉はまったくナウくない。
また貨幣価値はインフレとともに低下していくものだが、言語の意味も同じように時間とともに価値が低下していくものらしい。たとえば「貴様」という語は、一つ一つの漢字の意味から考えると、相手を高く持ち上げる尊敬表現のはずだが、現在では、話し相手に「貴様」と呼ばれて喜ぶ人はいないだろう。
ドイツ語も事情は同じで、多くの単語が時間とともにインパクトを失ったり、価値が低下していく。たとえば程度の大きさを表現する普通の単語は sehr (とても)だが、強調のために、少し前までは super という語が特に若者たちに好まれた。しかし現在ではこの単語はインパクトを失いつつあり、mega- という接頭辞に取って代わられつつあるようである。クラウン独和辞典第4版には、megaschlecht(最悪の)や mega-out(まったく時代遅れの)などの例があげられている。
また Frau という語は、中世では(現在とは形が異なっていたが)「貴婦人」(つまり貴族階級に属する女性)を指していた。しかし現在では、そもそも貴族がいなくなってしまったということもあるが、原則的には子供を除くすべての女性が Frau である。それにともない、かつてはすべての女性を意味した Weib という語は(これも中世では形が異なっていたが)、その地位を Frau に譲り、現在では「女性」に対するマイナスの評価を伴うものとなっている。つまりこの2つの単語はどちらも、価値が低下したのである。
もちろん意味の変化には価値の低下以外にもいろいろなタイプがあるが、やはり価値の低下のケースが多いようだ。
ところで Arbeit と語は、中世では「苦労、労苦」を意味していたのだが、現在では「仕事」という意味が中心となっている。これは価値の低下なのだろうか、それとも上昇なのだろうか、私にもよくわからない。
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【筆者プロフィール】
重藤 実(しげとう・みのる)
東京大学大学院人文社会系研究科教授
専門はドイツ語学。『クラウン独和辞典』編修委員。
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【編集部から】
2008年2月に『クラウン独和辞典』(第4版)が刊行されました。日本初、「新正書法」を本格的に取り入れた独和辞典です。編修委員の先生方に、ドイツ語学習やこの辞典に関するさまざまなエピソードを綴っていただきます。







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2007年









