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地域語の経済と社会 第59回

2009年 8月 1日 土曜日 筆者: 山下 暁美

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第59回「もてなしの方言(九州地方)」

 「もてなしの方言」のシリーズでは、都道府県会館や都内のアンテナショップなどで収集したパンフレットやチラシをご紹介しています。現物を頼りに方言のニーズを地域経済や観光産業と照らし合わせて考えようというのが、この連載の趣旨です。

【写真1】
【写真1】(クリックで拡大します)
【写真2】
【写真2】(クリックで拡大します)

 さて、今回ご紹介するのは、九州地方における「もてなしの方言」です。第14回「一日で全国の方言を聞く方法」で紹介しましたが、九州地方は方言グッズが多い地域で、筆者の手元にある資料件数を見ても沖縄県、鹿児島県は、群を抜いています。宮崎県、長崎県、熊本県があとに続きます。いずれも観光資源が豊かな地域だと言えましょう。いくつかを選択してご紹介することにします。沖縄県の「めんそーれ」は第32回で紹介されていますので、ここでは省略します。

 鹿児島県には、いろいろな「もてなしの方言」があります。あまり聞きなれない方言として、まず、「もいんしょれ」(徳之島【写真1】)があります。「いらっしゃいませ」という意味です。「きやんせ」(甑島・こしきじま【写真2(上)】)も、「いらっしゃい」の意味です。

 「おじゃったもんせ!」(おいでください・鹿児島県【写真2(下)】)の「おじゃる」は、「いる」「行く」「来る」の尊敬語で、「オ(いで)アル」が元の形です。現在、この形が鹿児島県と東北地方に残っていることから、京都で昔使われていた形と考えられています。「たもんせ」は、「たもんす」が元の形で、「たもる(賜る)」(補助動詞・~てください)がついた形です。「おいでになってください」つまり、「いらっしゃいませ」という意味になります。「きょうは、ゆくさおじゃったもした」(きょうはようこそおいでくださいました)などと言います。

もてなしの方言(九州地方)
写真1 もいんしょれ 徳之島 鹿児島県
写真2(上) きやんせ 甑島
    (下) おじゃったもんせ!
写真3 来てみらんね 日南市 宮崎県
写真4 待っとるばい 長崎市 長崎県
【写真3】【写真4】
左:【写真3】 右:【写真4】
(クリックで拡大します)

 「来てみらんね」(来てみませんか)(宮崎県【写真3】)の「みらん」の「~ん」は、否定の表現で「食べん」「行かん」などと言います。「ね」は「さー食べんね」のように、「どうぞ食べてください」とていねいに勧めるときに使います。「みない」というと、共通語では否定の意味ですが、宮崎県では「~ない」が命令の表現で「見ない」「食べない」が「見なさい」「食べなさい」の意味になります。

 「待っとるばい」(待っているよ・長崎市【写真4】)の「~ばい」は、「よ」にあたり、軽い念おしの感情を表現しています。

 現物があるのに紹介できなかったのは、「来てんしゃい」(福岡市)、「行っとかんば」(佐賀県杵島郡)、「遊びにこんね」(佐賀市)、「来(こ)んね、住まんね」(宮崎県)、「のみんきね」(宮崎県日南市)、「きなっせ」(熊本県山鹿市)、「よう来なはったな」(熊本市)、「来なっせ」(長崎県東彼杵郡)、「きやんせ」(鹿児島県川内市)などです。実に豊かな表現が用いられている地域であることがわかります。

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『海外の日本語の新しい言語秩序―日系ブラジル・日系アメリカ人社会における日本語による敬意表現』『書き込み式でよくわかる 日本語教育文法講義ノート』山下暁美(やました・あけみ)
明海大学外国語学部・大学院応用言語学研究科教授。博士(学術)。
専門は、日本語教育学・社会言語学。研究テーマは、移民百年を迎えた、ブラジル、アメリカ合衆国などにおける日本語の変化、外国人の日本定住化による共生時代の日本語教育政策。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。

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2009年 8月 1日