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地域語の経済と社会 第88回

2010年 2月 27日 土曜日 筆者: 日高 貢一郎

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第88回 高知県四万十市の「あきついお」

 このほど“日本最後の清流”として知られる高知県の四万十川に出かけ、四万十市内にある博物館「あきついお」を訪ねました。

「あきついお」(四万十川学遊館)
【写真1】「あきついお」(四万十川学遊館)

 「あきついお」とは……? ちょっと変わった名前ですが、実は、「あきつ」と「いお」からなり、四万十川流域を中心とした、昆虫のトンボと、川魚とを集めた学習・観光施設です。

 「あきついお(四万十川学遊館)」という名前と表記からもわかりますが、楽しく遊びながらしっかり学んでもらいたいという思いが込められています。

 設立者は「社団法人・トンボと自然を考える会」です。四万十川流域には約90種のトンボと、約200種の魚がいるということですが、「あきついお」には日本はもとより、海外まで含めてトンボの標本1000種、3000点、魚300種、2000点が展示されています。

 トンボのことを、日本では古くは「あきづ」(蜻蛉、秋津)、のちに「あきつ」(中古以降)と言ったことが知られています。

 トンボを意味する方言は、『日本方言大辞典』(徳川宗賢ほか編、小学館、平成元年=これまでに全国各地で発行された方言集や方言辞典、およそ1000冊を集大成し、約20万語もの方言での言い方を収録した、日本で最大の方言辞典)によると、全国でこれまでに知られているだけでも、実に189種類にものぼります。

 この辞典をベースにして、共通語形から引けるようにしたのが『標準語引き 日本方言辞典』(佐藤亮一監修、小学館、平成16年)ですが、同書によると、トンボのことを「あきつ、あけず」などと言う(言った)地域は、主に北の東北地方と、遠く離れた南の九州・沖縄です。「ゐなかには、いにしへの言の残れること多し」(本居宣長『玉勝間』)と言われる、その例のひとつです。

 国立国語研究所編『日本言語地図』(全6巻)にもこの項目があり、その一般向けの簡略版ともいうべき『日本の方言地図』(徳川宗賢、中公新書)にも全国の分布図と解説があります。

 インターネットの「Web水族館 全国水族館ガイド」には「高知県の言葉で「あきつ」はトンボ、「いお」は魚で、「あきついお」の名称となっている」とありますが、『高知県方言辞典』(土居重俊)には、「いお」(=魚)はありますが、「あきつ」は見られません。

 そうなると、館名の「あきついお」は、古語+方言と見るべきでしょうか。

「いおワールド」(鹿児島市)
【写真2】「いおワールド」(鹿児島市)

 なお、同様の命名をしたのが、鹿児島市にある「いおワールド かごしま水族館」です。魚を意味する「いお」と、その多様な世界=「ワールド」を見てもらおうと名づけられたものです。

《参考》高知県四万十市の「あきついお」はhttp://www.gakuyukan.com/index2.html、鹿児島市の「いおワールド」はhttp://www.ioworld.jp/ の、各ホームページを参照。

写真提供:「あきついお」、「いおワールド」

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

日高貢一郎(ひだか・こういちろう)
 大分大学 教育福祉科学部 教授(国語学・方言学) 宮崎県出身。これまであまり他の研究者が取り上げなかったような分野やテーマを開拓したいと、“すき間産業のフロンティア”をめざす。「マスコミにおける方言の実態」(1986)、「宮崎県における方言グッズ」(1991)、「「~されてください」考」(1996)、「方言の有効活用」(1996)、「医療・福祉と方言学」(2002)、「方言によるネーミング」(2005)、「福祉社会と方言の役割」(2007)など。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。

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2010年 2月 27日