地域語の経済と社会 第126回 「“気づいた”方言の方言みやげ―地域言語的用法の共通語視から―」
2010年 11月 20日 土曜日 筆者: 田中 宣廣地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第126回「“気づいた”方言の方言みやげ―地域言語的用法の共通語視から―」

【写真1 方言ライター
「とうきょう」】
秋田県で,ちょっと変わった方言みやげを見つけてきました。
それは,方言ライターです。
方言は「とうきょう」,共通語訳は「関東方面」とあります【写真1】。
秋田県で「とうきょう」と言えば,神奈川県,埼玉県,千葉県の,東京通勤圏程度の範囲を指す,というものです。
秋田の人たちは,この用法について,『方言』であること,つまり,地域性のあることを,あまり認識していないようです。私のゼミの学生で,秋田県出身者も,同様でした[注1]。
こういう『方言用法を共通語だと思い込む』ことを,「地域言語的用法の共通語視」と言います。これは私の術語です。この連載を一緒にしている井上史雄先生は,「気づかない方言」と呼んでいます[注2]。


左:【写真2 方言ライター「なんぼこれだぁ」】
右:【写真3 「まめでらが~」ステッカー】
だから,「とうきょう」(関東方面)を,方言みやげに採用したのは,この用法について,『方言』だと“気づいた”というわけです。方言みやげの掲載方言では『変わり種』です。
秋田の他の方言ライターには,「なんぼ これだぁ」(他家訪問時の挨拶「ごめんください」「こんにちは」の意)【写真2】があり,また,関連の方言みやげに,「(道の駅)十文字限定『まめでらが~』(元気ですか?)ステッカー」などがあります【写真3】[注3]。
皆さんも,こういう方言みやげにも“気づいた”ら,地域語の有効活用を,より興味深く見ることができると思います。
[注1] 実は,方言ライター「とうきょう」は,入手の前日に横手市(道の駅十文字)で見つけて,私は,迂闊にも『これは方言みやげではない』と誤解し,他の方言みやげを購入しました。その後“気づいて”,仙北市の岩手県との境に近いところで入手したものです。
[注2] 方言に対する類似の観方は,研究者ごとに定義と用語が異なります。ここの本文の2用語のほか,「方言らしくない方言」「えせ標準語」「気づかれにくい方言」「変容方言」「地方共通語」など,全部で14種を確認しています。私は『言語科学の百科事典』(丸善)p.396で整理しました。
[注3] 「まめでらが~」は,この道の駅のキャッチフレーズにもなっています【写真4】。店内には他の方言みやげや,方言メッセージがあります【写真5】。横手市のインターネットサイトにも道の駅十文字のページがあります。URLは,http://www.city.yokote.lg.jp/kakuka/tiiki_jumonji/sangyo/mitieki1.jspです。
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【筆者プロフィール】
言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)
田中宣廣(たなか・のぶひろ)
岩手県立大学 宮古短期大学部 准教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,地域の自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞。『Marquis Who’s Who in the World』(マークイズ世界著名人名鑑)掲載。
【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載。
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2010年 11月 20日








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