地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第140回 大橋敦夫さん:佐渡の『~ちゃ』

筆者:
2011年3月5日

佐渡島で

佐渡観光の誘客・PRを目的とした「CHEER UP! ふんばれっちゃ佐渡キャンペーン」が佐渡市で展開されています(2011年3月31日まで)。

ステッカー【下写真(上)】のほか、Tシャツ(標語に佐渡島とトキをデザイン【下写真(下)】)が作られ、佐渡市や観光協会の職員の方々が着用、活動を盛り上げています。

 

(写真はクリックで拡大します)

また、相川地区では、商店街や地域の活性化を目指す「こいっちゃまつり」が8年ぶりに復活(2010年9月26日に開催)。

「~ちゃ[=だよね]」は、どことなく暖かみを感じさせる文末表現ですが、「そうだっちゃ」「行くっちゃ」のように、共通語の「よ」の代わりに用いられ、力を込めて使われている感じがします。

佐渡の酒と肴 だっちゃ

すぐに佐渡島へ出向けないという首都圏の方は、居酒屋「だっちゃ」(地下鉄銀座線浅草駅改札そば【下写真(上)】)へ。

 

そこは、方言Tシャツ(「へちこうぜい[=余計なお世話]」など5種あり【上写真(下)】)を身につけた店主・喜多村さやかさんが切り盛りするお店。佐渡市出身の喜多村さんの佐渡弁とともに佐渡の郷土料理と銘酒が楽しめます。

「だっちゃ」は、ラムちゃん語!?

「だっちゃ」と聞くと、漫画『うる星やつら』の主人公・ラムちゃんを思い出される方も多いのでは?

このラムちゃんの「だっちゃ」について、方言研究家・篠崎晃一氏は、仙台方言説(「仙台だっちゃ」といわれるように、仙台では有名な文末表現であること・原作者の高橋留美子さんが井上ひさしさんの小説にヒントを得たという説も根強い)に対し、宇宙方言説(ラムちゃんは宇宙人であり、自分のことを「うち」と呼んだりして、日本という枠を飛び越えている)を出されています(『しのざき教授のなまらやさしい方言講座 日本語でなまらナイト』小学館、2006)。

が、居酒屋「だっちゃ」では、佐渡方言説が有力。ふじの井酒造(新潟県新発田市)特別本醸造「うる星やつら」のラベルを眺めながら、原作者高橋さん(新潟市出身)のご親族は、佐渡のご出身というお話を聞いていると、説得された気持ちにもなります。

「年齢確認」が必要なフィールドワークですが、「対象年齢」の方は、盃を傾けながら、自説を練ってはいかがでしょう。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 大橋 敦夫(おおはし・あつお)

上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。

大橋敦夫先生監修の本

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。