三省堂辞書の歩み

第11回 新訳英和辞典

筆者:
2012年12月12日

新訳英和辞典

明治35年(1902)6月1日刊行
神田乃武、横井時敬、高楠順次郎、藤岡市助、有賀長雄、平山信共編/本文1136頁/三五判変形(縦149mm)

【新訳英和辞典】19版(明治40年)

【本文1ページめ】

三省堂編修所の斎藤精輔は、明治29年に『和英大辞典』が完成したあと、やりかけだった『ウブスター氏新刊大辞書 和訳字彙』(明治21年・1888)の大改訂を本格的に再開した。そして、学術専門語の充実を図り、いっそうの近代化による新たな形で完成したのが『新訳英和辞典』である。

見出し語にウェブスター式の発音を表す記号が付けられている点は同じだが、訳語は大幅な変更を行い、格段に詳細となった。また、熟語などは子項目にして親項目に追い込まれ、慣用句などの用例は少なめである。その一方、訳語には主として雅語を用い、漢字カタカナ交じり文のため外国地名は漢字で表記するなど、保守的な部分も残っている。

編者の神田乃武は『和英袖珍新字彙』(明治23年)に続く登場。高楠順次郎は、東京外国語学校の第3代校長(初代は神田乃武)で、東京帝国大学の教授を兼務しいていた。横井時敬は農業、藤岡市助は電気学、有賀長雄は法律・政治・経済・外交・哲学・心理・教育・美術、平山信は天文学の訳語を担当したという。

●最終項目

Zyxomma, n.(動)一種の蜻蛉(トンボ).

●「猫」の項目

●「犬」の項目

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新訳英和辞典:

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筆者プロフィール

境田 稔信 ( さかいだ・としのぶ)

1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。

編集部から

2011年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
そこで、このたび、三省堂の辞書の歩みをウェブ上でご覧いただく連載を始めることとしました。
ご執筆は、この方しかいません。
境田稔信さんから、毎月1冊(または1セット)ずつご紹介いただきます。
現在、実物を確認することが難しい資料のため、本文から、最終項目と「猫」「犬」の項目を引用していただくとともに、ウェブ上で本文を見ることができるものには、できるだけリンクを示すこととしました。辞書の世界をぜひお楽しみください。
毎月第2水曜日の公開を予定しております。