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You’ve Got A Friend(1971/全米No.1,全英No.4)/ジェームス・テイラー(1948-)

2013年 10月 16日 水曜日 筆者: 泉山 真奈美

歴史を彩った洋楽ナンバー~キーワードから読み解く歌物語~ 第102回

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●歌詞はこちら
http://www.azlyrics.com/lyrics/jamestaylor/youvegotafriend145759.html

曲のエピソード

本連載第36回目で採り上げた稀代のソングライター、キャロル・キング(1942-)は、自身もシンガーとして大成功を収めており、年齢を重ねた今も美しさを保ったまま現役シンガーとして活躍中である。若くしてソングライターの才能が開花したことについては、やはり本連載第72回で採り上げた、キャロルも共作者として名を連ねているリトル・エヴァの「The Loco-Motion」で触れた。そんな彼女のソングライターとしての才能に惚れ込んだアーティストは大勢いるが、とりわけジェームス・テイラーの惚れ込みようは群を抜いたのでは、と思う。

もともとキャロルが自身のアルバム『TAPESTRY(邦題:つづれおり)』(1971)用にレコーディングした「You’ve Got A Friend(邦題:君の友だち)」(注:彼女のオリジナル・ヴァージョンはシングル・カットされなかった)をいたく気に入ったジェームスが、オリジナルの歌詞をやや変えてレコーディングし、なおかつシングル・カットして大ヒットに至った。それは、『TAPESTRY』のリリースからわずか約3か月後の出来事だったのである。1971年春、両者はジョイント・ツアーを行っているのだが、ジェームスが歌った「You’ve Got A Friend(こちらの邦題は“君”ではなく平仮名→きみの友だち)」が大ヒットしたため、そのオリジナル・ヴァージョンを自作自演したキャロルは、彼の前座に甘んじた。また、当時、それほど間を置かずに両者の「You’ve Got A Friend」がリリースされたため、アメリカ中のラジオDJたちがあたかもオリジナル・ヴァージョンとカヴァー・ヴァージョンの競争を煽るかのように、シングル・カットの有無にかかわらず、両者のヴァージョンを同時に流したと伝えられている。アメリカのラジオDJたちは、そうした競争を煽り立てるのが昔も今も大好きだ。筆者はそうした現象を過去に何度かラジオで実際に耳にしてきたが、どちらのヴァージョンが優れているかなんていうのは、リスナー側の好みに任せておけばいい話である。いたずらに競争心を煽ると、同じ曲をレコーディングしたアーティスト同士の関係を壊してしまいかねない。ところが聡明な女性のキャロルと温和なジェームスはラジオDJたちの煽りに踊らされることなく、今に至るまで旧交を温め、そしてジョイント・コンサートでは「You’ve Got A Friend」のデュエットを披露して往年のファンの心を鷲掴みにしている。筆者は映像でしか観た(聴いた)ことがないが、非ラヴ・ソングでありながら、じつに心に沁み入る男女デュオだと感じ入ったものだ。筆者は“男女の友情”は成立すると信じているし、実際に恋愛感情抜きで生涯の友と呼べる男友だちが何人かいるので、ジョニー&キャロルの時を経た(経たからこその?)固い友情に胸を打たれる。これぞ究極の「You’ve Got A Friend」な関係なのだと。

しかしながら、この曲がリリースされた当時の時代背景を考えてみると、作詞作曲者のキャロルの意向(彼女は同曲について「自然にアイディアが生まれた」と語っている)とはまた違ったものを歌詞の行間から読み取れるのではないだろうか。ここで肝心なのは、この曲がリリースされた1971年という時代。そう、本連載第1回目で採り上げたマーヴィン・ゲイによるヴェトナム戦争への反戦歌「What’s Going On」がリリースされた年なのだ。

データ的なことを記しておくと、「You’ve Got A Friend」はジェームスにとって(目下)唯一の全米No.1ヒット曲であり、グラミー賞では見事3部門――最優秀楽曲賞、最優秀レコード賞、そして最優秀男性ポップ・ヴォーカル・パフォーマンス賞――を受賞した。

曲の要旨

落ち込んで悩みを抱え、誰かの助けを必要とする時、何をやっても上手く行かない時、目を閉じてぼくのことを想ってくれれば、きみ(※邦題が「きみの友だち」なので敢えて平仮名にした)の許へ飛んで行くよ。きみを絶望の淵から救い出してあげるためにね。きみがぼくの名前を呼んでくれたら、どこにいてもぼくはきみの傍らに駆け付けるから。ぼくを必要とする時には、四季を問わず、いつでもぼくを呼んでくれよ。きみにはぼくという友だちがいることを忘れないでくれ。どんなに辛くても落ち込まずに、毅然としていて欲しい。そしてぼくの名前を大声で呼んでくれ。そしたらまたきみに会いに急いで駆け付けるよ。きみにはぼくという友だちがついているんだからね。

1971年の主な出来事

アメリカ: 憲法修正第26条で、全選挙で18歳以上に投票権を与えることを決定。
日本: ハンバーガー大手チェーンのマクドナルドが日本の第1号店を銀座にオープン。
世界: 中国の林彪副主席が亡命を企てるも、搭乗した飛行機が墜落して死亡。

1971年の主なヒット曲

Want Ads/ザ・ハニー・コーン
It’s Too Late/キャロル・キング
Uncle Albert/Admiral Halsey/ポール&リンダ・マッカートニー
Maggie May/ロッド・スチュワート
Theme From Shaft/アイザック・ヘイズ

You’ve Got A Friendのキーワード&フレーズ

(a) a helping hand
(b) you’ve got a friend
(c) you just call out my name

たびたびこの場に登場させて恐縮なのだが、筆者にとって最も身近な1970年代の洋楽シーンの“時代の証言者”が家人であるので――しかも好都合なことに(苦笑)1970年代にヨーロッパを放浪したホンマモンのヒッピーだった、というところが笑える、もとい、心強く思える――過日こう訊ねてみた。「“You’ve Got A Friend”っていったら、真っ先に誰のヴァージョンを思い浮かべる?」。すると家人は間髪を置かずに次のように答えた。「そりゃジェームス・テイラーだよ」。ふむふむ。じつは筆者も同意見。しかしながら、家人が生まれて初めて聴いた「You’ve Got A Friend」は、キャロルの『TAPESTRY』収録のオリジナル・ヴァージョンだったはずなのである。何故なら、家人は1971年当時、同アルバムをリリースとほぼ同時に購入しているからだ。なのに最も印象深いヴァージョンはジェームスのカヴァーだという。シングル・カット曲と非シングル・カット曲の間に横たわる深い溝のようなものを垣間見たような気がした。そして筆者にとっての「You’ve Got A Friend」もまた、「君の友だち」ではなく「きみの友だち」なのである。恐らく幼少期に非シングルとは言えキャロルのオリジナル・ヴァージョンもラジオで耳にしていただろうが、今なお記憶にあるのはジェームスのヴァージョンの方だ。何故か? 当然ながら、たった1週とは言え、全米No.1の座に就いた大ヒット曲であり、頻繁にラジオで流れていたから。そしてジェームスのカヴァーの方が印象深い最大の理由は、筆者が昔からこの曲を勝手に“ヴェトナム戦争の前線で戦っているきみたち(=不特定多数のyou)”に向けられたメッセージ・ソングとして捉えて聴いてきたからに外ならない。

思うに、キャロルはそんな御大層なことを念頭に置かずに、彼女の言葉を拝借するなら「自然にアイディアが生まれ」てきてこの曲を書き上げたのだろう。しかしながら筆者は、その歌詞の内容が偶然にも1971年という時代を生きた人々の心に様々なかたちで響いたのでは、と思わずにはいられない。もともとはキャロルが落ち込んで苦しんでいる“女友だち”に向かって語り掛けた曲なのだろうが、筆者にはどうしてもピンと来なかった。もちろん、筆者にも心が疲れた時に頼りたくなる同性の友だちが何人もいる。また、体型のせいか(笑)、昔から性別を問わず知人・友人たちから相談を受け易い。筆者が今年4月下旬に××薬の過剰摂取でジャニス・ジョプリンよろしく(?)救急搬送された際に、わざわざ鎌倉から駆け付けて救急車に同乗してくれたのは、付き合いが四半世紀以上にも及ぶ女友だちだった(あの時は本当に涙が出るほど嬉しかった。がしかし、その時の記憶はブッ飛んだまま/苦笑)。それでも筆者はこの「You’ve Got A Friend」を女同士の友情ソングとして捉えることはどうしてもできない。もちろん、キャロルのヴァージョンも素晴らしいし、大好きではあるが……。その一方では、勝手に“ヴェトナム戦争で戦う友人たち(=同じ国に生まれた者同士)へのメッセージ”として歌詞を解釈してきたためか、筆者にとっての「You’ve Got A Friend」は、昔も今もジェームスのヴァージョンが最も耳と心に馴染んで聞こえる。

(a)は直訳すると「救いの手」だが、辞書にはそのまま“helping hand”として載っており、「救いの手、援助、助け、助力、支持」といった意味が載っている。筆者に初めて(a)を教えてくれた洋楽ナンバーは、R&B/ソウル・ミュージック史上最高の男女デュオと言っても過言ではないマーヴィン・ゲイ&タミー・テレルの「Ain’t No Mountain High Enough」(1967/R&BチャートNo.3,全米No.19)であった。そして同曲での(a)を含むフレーズでは、「You’ve Got A Friend」に登場するそれと酷似した言葉が続く。曰く「君が僕に助けを求めたら、急いで君の許に駆け付けるよ」。同曲はラヴ・ソングだが、(a)はメッセージ・ソングや友情ソングにも頻出する名詞である。

タイトルでもある(b)は、現在完了形である点が肝心なところ。試しに(b)を以下のように書き換えてみると――

♪You had a friend.(君には友だちがいた=今はいない)
♪You have a friend.(君には友だちがいる=今のところは友だちがいる、といった感覚)
♪You used to have a friend.(君にはかつて友だちがいた=しかしながら今は独りぼっち)

英文法の中で、日本人の感覚ではなかなか理解しにくいもののひとつが現在完了形。例えば筆者は、“My mother has been dead for ten years.(私の母は10年間、死んだ状態です)”という英語での表現に未だに慣れない。だったらシンプルに“My mother died 10 years ago.(私の母は10年前に亡くなりました)”と言った方がずっと感覚的にしっくりくる。ところが、(b)の場合は、ぜひとも完了形でなければその思いが伝わってこない気がするのだ。“have+got”の現在完了形であることによって、「きみには(決してきみを見捨てない)ぼくという友だちがいるんだよ」と言っているように聞こえるから。みなさんは如何でしょう?

(c)は勘違い+誤訳し易い言い回しのひとつ。直訳の「きみはただぼくの名前を大声で呼ぶ」は、ハッキリ言って誤訳である。ここから主語の“You”を取り払ってみれば、(c)のフレーズがいわんとしていることがお解り頂けると思う。そう、ここは「とにかくぼくの名前を大声で呼んでくれ=(辛くて苦しい時には)ぼくがいることを思い出してくれ」と言っているフレーズなのだ。そうかといって、“Please call out my name.”では、親しい友人同士の間での語り掛けとしては堅苦し過ぎる。筆者は洋楽ナンバーの訳詞を生業にするようになってから、(c)のような言い回しが英語にあることを初めて知った。

先ほど、筆者が田舎を離れて鶴見大学に進学した際、今は亡き父から初めてもらった手紙を数十年ぶりに取り出して読み返してみたところだ。そこには次のように綴ってあった。「刻苦勉励せよ。そして友情を育め。友は一生の宝である」。この「You’ve Got A Friend」の歌詞と共に、亡父の言葉を深く心に刻まねばと、改めて肝に銘じた次第である。

【筆者プロフィール】

泉山真奈美(いずみやま・まなみ)

1963年青森県生まれ。幼少の頃からFEN(現AFN)を聴いて育つ。鶴見大学英文科在籍中に音楽ライター/訳詞家/翻訳家としてデビュー。洋楽ナンバーの訳詞及び聞き取り、音楽雑誌や語学雑誌への寄稿、TV番組の字幕、映画の字幕監修、絵本の翻訳、CDの解説の傍ら、2012年まで翻訳学校フェロー・アカデミーの通信講座(マスターコース「訳詞・音楽記事の翻訳」)、通学講座(「泉山式 翻訳力×英文法講座」)の講師を務めた。著書に『アフリカン・アメリカン スラング辞典〈改訂版〉』、『エボニクスの英語』(共に研究社)、『泉山真奈美の訳詞教室』(DHC出版)、『DROP THE BOMB!!』(ロッキング・オン)など。『ロック・クラシック入門』、『ブラック・ミュージック入門』(共に河出書房新社)にも寄稿。マーヴィン・ゲイの紙ジャケット仕様CD全作品、ジャクソン・ファイヴ及びマイケル・ジャクソンのモータウン所属時の紙ジャケット仕様CD全作品の歌詞の聞き取りと訳詞、英文ライナーノーツの翻訳、書き下ろしライナーノーツを担当。マーヴィン・ゲイ『ホワッツ・ゴーイン・オン 40周年記念盤』での英文ライナーノーツ翻訳、未発表曲の聞き取りと訳詞及び書き下ろしライナーノーツを担当した。その他、ジャンルを問わずポップス、ロックの訳詞も手がける。

2013年 10月 16日