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地域語の経済と社会 第350回 連載350回をふり返って

2016年 3月 26日 土曜日 筆者: 日高 貢一郎

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第350回 連載350回をふり返って  執筆者一同

 近年,全国各地で,その土地の方言を活かした商品や品々が増え,建物や施設などに地元の方言を活かしたネーミングなどが多くなってきています。私ども方言研究者が共同で,身近にあるそういった事例を探し,写真入りで紹介して現状を把握し確認したいと考えて始まったのがこの連載でした(2008年6月~)。

 地域性にも,また事例のバラエティーにも配慮しながら,多様で多彩な実態がわかるようにしたいというのが一同のめざすところでした。関西などに事例が多いことは周知のことでしたから,次のようなことに努めました。

《1》これまであまり(あるいはほとんど)報告されていない地域に重点を置きたいと考えました。
《2》また,まだ知られていないような事例の発掘にも力点を置きました。
《3》企画し制作した人には,ねらいや方言の持つどういう面をどのように活かすつもりだったのかについても可能な限り問い合わせて,それを記すようにしました。

 その結果,全体としては,次のようなことが明らかになりました。

(1)地域としては,これまで手薄だった茨城・千葉・神奈川,滋賀・奈良・和歌山,などを含む47都道府県のすべてから具体例を見つけることができ,全国に拡がっていることが確認できました。
(2)事例も,焦点を当てて中心的に取り上げたものと,関連して類似例として挙げたものを合わせると,1000件を軽く超えています(数え方が難しい面もありますが)。
(3)外国についても約30の国と地域の事例を紹介し,日本以外にも同様の事例は広くあちこちにあることがわかりました。

 また,内容面での内訳を見ると,次のようなことが言えるでしょう。

① 「方言」はそれぞれの地域らしさをアピールする恰好の素材・手段として,自信を持って誇らしく活用されている。
② 予想をはるかに上回る,実に多様で多彩なバラエティーと数とがあった。
③ 想定されている主な対象者としては,大きく分けて,地元の人たち向けのものと,観光客や外来者・購買者など,地元以外の人たち向けのものとがある。
④ 地元向けは,親近感や訴える力の強さを,地元以外向けは,不思議さや興味深さ・意外性を活かそうと考えたものが多い。
⑤ 商業方面はもちろんのこと,自治体など“お堅い”と思われている分野でも見られるようになっている。
⑥ その背景には,地域色を強くアピールし,個性的で親しみやすく印象的に表現したいという意図と願いが込められている。
⑦ ちょっとひねりを効かせたり,ことば遊びの要素を加えたりして,ユーモラスな効果をねらったものもある。
⑧ 表記の面では,かつてはひらがな・カタカナや漢字交じりが主流だったが,近年ではローマ字書きの例が非常に増えている。
⑨ それ(⑥⑦⑧)は,泥臭くなくスマートに面白く表現したいという意図をもったものであると考えられる。
⑩ 地元の方言以外の,よく知られた他の地域の方言を活用した事例も見られる。
⑪ 高校生や大学生が方言を活かした活動に取り組む例が見られるなど,高年層・中年層だけでなく,若年層も方言に関心を寄せている。
⑫ 特に近年になるほど,こういう事例が盛んに作られ見られるようになっており,この傾向は,今後もますます増えるであろうと思われる。

 執筆者は,当初の5人に加えて,関心を持つ方言研究者にも依頼し,合計13人になりました。今回の連載の中には方言研究という面から見て,貴重な情報がたくさん集まっています。方言グッズや方言を活用した事例はまだまだたくさんあるはずですから,探索と収集の作業は今後も続けていきます。またいつか発表の機会があることを願っています。

『魅せる方言 地域語の底力』
『魅せる方言 地域語の底力』

 毎回お読みいただいた皆様,長い間のご愛読,ありがとうございました。お忙しい中,私どもの問い合わせに答えてくださった企画・制作者の皆さんにもお礼を申し上げます。併せて,こういう得がたい機会と発表の場を提供していただいた三省堂Webサイトに,厚くお礼を申し上げ,ひとまずの締めくくりとさせていただきます。

 なお,この連載のちょうど半分に当たる第174回(2011年10月)までの記事の精選版は,『魅せる方言 地域語の底力』(三省堂 2013年11月)として刊行されています。

 2008年6月の第1回から今回の350回まで,8年近くにわたって連載した記事は当分の間,このサイトに残されていますから,今後も見ていただくことが可能です。ネットサーフィンができますから,「バーチャル方言博物館」としても役立ちます。また事例をどう分類できるかなどについては,『魅せる方言』もぜひご覧ください。

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。2008年から長きにわたって、方言研究の第一線でご活躍中の先生方からリレー連載をしていただいておりました。この第350回にて休載となります。

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この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。

2016年 3月 26日