タイプライターに魅せられた男たち・補遺

広告の中のタイプライター(25):Rem-Sho Typewriter No.2

筆者:
2018年2月1日
『Typewriter World』1898年4月号

『Typewriter World』1898年4月号

「Rem-Sho Typewriter No.2」は、シカゴのレミントン・ショールズ社が、1898年に製造を開始したタイプライターです。レミントン・ショールズ社は、レミントン(Philo Remington)の甥フランクリン(Franklin Remington)と、ショールズ(Christopher Latham Sholes)の息子ザルモン(Zalmon Gilbert Sholes)が率いるタイプライター会社で、1896年に「Remington-Sholes Typewriter」を発売しています。「Rem-Sho Typewriter No.2」は、その後継にあたるタイプライターで、上の広告にもあるとおり、販売をハウ・スケール社に委託していました。

「Rem-Sho Typewriter No.2」は、38キーのアップストライク式タイプライターです。タイプバスケットに円形に配置された38本の活字棒は、それぞれがキーにつながっており、キーを押すと、対応する活字棒が跳ね上がってきて、プラテンの下に置かれた紙の下側に印字がおこなわれます。打った文字をその場で見ることはできず、プラテンを持ち上げるか、あるいは数行分改行してから、やっと印字結果を見ることができるのです。活字棒の先には、活字が2つずつ埋め込まれていて、キーボード左下の「CAP」キーを押し下げると、タイプバスケット全体が手前にシフトし、大文字が印字されるようになります。「CAP」キーを離すと、タイプバスケット全体が奥にシフトし、小文字が印字されるようになります。「CAP」キーのすぐ上には、「CAP」をロックするための小さなキーがあります。

「Rem-Sho Typewriter No.2」のキーボードは、いわゆるQWERTY配列です。最上段のキーは、大文字側に“#$%_&’()が、小文字側に23456789-が、それぞれ配置されています。その次の段は、大文字側にQWERTYUIOPが、小文字側にqwertyuiopが配置されています。その次の段は、大文字側にASDFGHJKL:が、小文字側にasdfghjkl;が配置されています。最下段は、大文字側にZXCVBNM?.が、小文字側にzxcvbnm,/が配置されています。筐体の右側に見える七角形のノブには、「RLRLR」と記されています。このノブは、インクリボンの進行方向を変えるもので、「R」に合わせるとインクリボンは右へ、「L」に合わせるとインクリボンは左へ、それぞれ動いていきます。1本のインクリボンを、全部で5回(2往復半)使うための仕掛けです。インクリボンの幅は35mm(1インチ3/8)もあって、片道ごとに7mm幅ずつ使うよう、「RLRLR」で少しずつインクリボンの位置が前後にずれる仕組みになっています。

レミントン・ショールズ社は、レミントン・スタンダード・タイプライター社とは直接の関係がなく、しかも1901年には商標訴訟に負けています。その結果、レミントン・ショールズ社は、フェイ・ショールズ社に社名を変更し、「Rem-Sho Typewriter No.2」も「Fay-Sholes Typewriter No.2」に改称せざるを得なかったようです。

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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