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広告の中のタイプライター(32):Remington Standard Typewriter No.2

2018年 5月 17日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

タイプライターに魅せられた男たち・補遺

『Illustrated Phonographic World』1893年11月号

『Illustrated Phonographic World』1893年11月号
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「Remington Standard Typewriter No.2」は、ウィックオフ・シーマンズ&ベネディクト社が1882年に発売したタイプライターです。E・レミントン&サンズ社の「Remington Type-Writer No.2」を継承したもので、発売当初は「Remington Standard Type-Writer No.2」だったのですが、上の広告の時点ではレミントン・スタンダード・タイプライター社が製造をおこなっており、ブランド名もハイフンなしの「Remington Standard Typewriter No.2」になっていました。

「Remington Standard Typewriter No.2」は、いわゆるアップストライク式タイプライターです。プラテンの下に、38本の活字棒(type bar)が円形に配置されていて、キーを押すと、対応する活字棒が跳ね上がってきます。活字棒は、プラテンの下に置かれた紙の下にインクリボンごと叩きつけられ、紙の下側に印字がおこなわれます。打った文字をその場で見ることはできず、プラテンを持ち上げるか、あるいは数行分改行してから、やっと印字結果を見ることができるのです。活字棒の先には、活字が2つずつ埋め込まれていて、プラテンの位置によって、大文字と小文字が打ち分けられます。「Upper Case」キーを押すと、プラテンが機械後方(オペレータから見て奥)へ移動し、その後は大文字や記号が印字されます。「Lower Case」キーを押すと、プラテンが機械前方(オペレータから見て手前)へ移動し、その後は小文字や数字が印字されます。また、キーボードの左上方には、取り外し可能なバネが付いており、このバネによって「Lower Case」キーを不要にできます。このバネを使うと、「Upper Case」キーを離した瞬間、バネの力でプラテンが機械前方に戻ってくるので、「Lower Case」キーを押す必要が無くなるのです。

1882年12月時点の「Remington Standard Type-Writer No.2」のキー配列

「Remington Standard Typewriter No.2」の基本キー配列は、上に示すようなQWERTY配列でした。「Remington Type-Writer No.2」と比べると、「M」が「L」の右横から「N」の右横へと移されており、「C」と「X」が入れ替えられていたのです。なお、数字の「1」は小文字の「l」で、数字の「0」は小文字の「o」で、それぞれ代用することになっていました。

上の広告によれば、1892年の時点でウィックオフ・シーマンズ&ベネディクト社は、「Remington Standard Typewriter No.2」を年間3万台、売り上げていました。多少の誇張は含まれるものの、トップシェアだったことは間違いなく、それは、アメリカじゅうにQWERTY配列を広めていく結果となったのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

http://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。

2018年 5月 17日