前回と前々回は「発話行為に対応する」あいづちと「文形式に対応する」あいづち表現をみてきました。今回は日本語の「はい/うん」と英語の yes/yeah にかかわるあいづちを考えてみます。
日本語のあいづちでは「はい」と「うん」がよく用いられますが、下降調(↘)で発せられるのが基本です。上昇調(↗)や平坦な音調(→)では用いられないということに注意したいと思います。
他方、英語でyesやyeahがあいづちとして使われる場合はどうでしょうか。音調にかかわる情報も明示してある Svartvik and Quirk (eds.), 1980, A Corpus of English Conversation から該当する例を改変したもので考えてみましょう。
‘You’d better get your essay paper simpler,’ ‘Yeah(→)’ ‘and readable.’「レポートは簡潔にするほうがよいし、」「そうね」「そして読みやすくね」
‘You have been advised by Paul to go to New York and see the Ford Foundation,’ ‘Yes(↗)’ ‘and he cited me as a referee.’「ポールにニューヨークに行ってフォード財団を訪ねたらと言われたんだよね」「ええ」「彼は私を審査員に指定したんだよ」
以上の例では1つ目の発話がコンマで終わり、3つ目の発話が小文字ではじまっていますが、これは文が続いているということを表します。つまり、yes/yeahがほぼ同時に発話されていると考えてください。この例からわかるように、英語ではyes/yeahによるあいづちは一般に上昇調(↗)や平坦(→)な音調が使われます。なお、上昇調には相手に話を促すニュアンスがあります。
一方、下降調で発話されますと、通例、「同意」と解釈されます。
‘It’s not worth reading.’ ‘Ah, yes(↘), yes(↘), yes(↘).’「その本は読む価値がないよ」「そう、そう、そう」
この例の前言が否定文であることに注意しましょう。これは前回言及した発話行為に対応する用法で、‘It’s not worth reading.’という「主張」を是認し、同意するものです。次例では That’s right. を伴って積極的に同意していることが示唆されています。
‘After all we are specialists and we cannot tackle the broad fields.’ ‘That’s right. Yes(↘).’「なんといっても私たちの専門分野は限られているから幅広い分野は扱えないよ」「その通り、同感だ」
以上、あいづち表現としての日本語の「はい/うん」は下降調で、英語の yes/yeah は上昇調あるいは平坦な音調で用いられること、また、英語の yes/yeah が下降調で発話されると、同意表現となることをみてきました。ここで大事なことはこの音調の差を正しく認識することです。よく間違えるのは、日本語のあいづちが下降調で用いられるので、あいづちとしての英語の yes/yeah も下降調で言ってしまうことです。英語による日本人と英語母語話者との交渉事で、日本人は話のなかで同意していたのに、最後に拒否をして戸惑うことがあるといったようなことが話題になることがあります。これは途中あいづちとして使った yes/yeah を日本語の「はい/うん」と同じように下降調で発音したために相手が「同意」と解釈したことに起因する誤解なのです。日本人としてはあいづちを打ちながら話を聞き、結論として「拒否」しても特に問題はないのですが、英語母語話者にとっては同意していたことが最後に否定されるという矛盾したことになるからなのです。