(菊武学園タイプライター博物館(7)からつづく)
「Salter Improved No.5」は、ジョージ・ソルター社が、1892年頃から1900年頃にかけて製造したタイプライターです。イギリスのウェスト・ブロムウィッチにあったジョージ・ソルター社は、元々はバネや重量計の会社だったのですが、フォーリー(James Samuel Foley)の設計により、タイプライターの製造・販売もおこないました。
「Salter Improved No.5」の特徴は、カーブした28キーのキーボードと、それに沿って鉛直に立てられた28本のタイプバー(活字棒)にあります。タイプバーは、それぞれがキーにつながっており、キーを押すと対応するタイプバーが打ちおろされて、プラテンの上に置かれた紙の上面に印字がおこなわれます。いわゆるダウンストライク式ですが、「Salter Improved No.5」では、各タイプバーの先に3種類の活字が埋め込まれていて、プラテン・シフト機構により、84種類の文字が印字できるのです。
ただ、菊武学園タイプライター博物館が所蔵する「Salter Improved No.5」は、シフトキーが少し変わっていて、大文字へのシフトキーが「MAJ」、数字へのシフトキーが「CHI」と記されています。「Salter Improved No.5」では、通常、これらは「CAP」と「FIG」なのです。キー配列はほぼQWERTY配列ですが、上段のキーは左から順に、Q・q・1、W・w・2、E・e・3、R・r・4、T・t・5、Y・y・6、U・u・7、I・i・8、P・p・9、O・o・0、となっていて、OとPが入れ換わっています。一方、中段のキーは左から順に、A・a・à、S・s・è、D・d・é、F・f・/、G・g・_、H・h・ù、J・j・£、K・k・’、L・l・-、^・.・)、下段のキーは左から順に、Z・z・”、X・x・%、C、c、ç、V・v・?、B・b・!、N・n・:、M・m・;、,・&・(、となっていて、記号の代わりに、アクセント付きの小文字が数多く搭載されています。シフトキーの「MAJ」がmajuscule、「CHI」がchiffreだとすると、菊武学園の「Salter Improved No.5」(製造番号2723)は、あるいはフランス向けの輸出モデルだったのではないかと推測されます。