地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第173回 日高貢一郎さん:高速道路のレストランに「佐賀弁クイズ」

2011年10月22日

高速道路の要所要所には、長距離ドライバーのための休憩施設、サービスエリア(SA)やパーキングエリア(PA)があります。

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【写真1 佐賀弁の問題リスト】
【写真1 佐賀弁の問題リスト】

長崎道の佐賀県金立(きんりゅう)サービスエリアの上り車線にあるレストランには、メニューと並んで地元の方言のリストが1枚、クイズ形式にして置いてあります。
 B5版サイズのシートの表には「佐賀弁」42語があげてあり、各語の(用法・ニュアンス付きの)正解は裏に書いてあります。

1年ほど前から始めたのだそうですが、食べたいメニューを注文したあと、料理が出てくるまでの待ち時間を有効に利用してしばし楽しむことができるので、お客さんにも好評だとのこと。
 例えば、次のような問題があげられています。( ⇒ 答えは末尾に)

1 がばい  2 そーにゃ  3 ねずむ  11 ぬっ  14 あまくらかす 
18 あっちゃこし  20 まちなんか  29 つーつらつー  34 ととしか  39 いたちょこ 

家族や仲間といっしょの場合には、テーブルの真ん中にこのリストを立て、かたや表の面にある各語の意味を予想して回答し、こなた裏面の正解を見ながら合否の判定をする、といった楽しみ方ができます。大勢いるときには、1人が出題して複数のメンバーが回答して得点を競うこともできます。正解にしろ不正解にしろ、けっこう盛り上がりそうです。

サービスエリアは長距離ドライブの途中に立ち寄るのがふつうですから、遠くから来た人たちにとっては思いもよらない言い方やその正解に意表を突かれたり、予想もつかない難しさに立ち往生し、「遠くまで来たなぁ」という実感を覚えることがありそうです。
 一方、同じ県や比較的近くから来た人にとっても、自分の方言との思わぬ違いや微妙なズレを感じる場合もあるでしょうから、両者それぞれに楽しめます。

【写真2 裏面のその回答】
【写真2 裏面のその回答】

たった1枚の「方言リスト」ですが、苦肉の珍回答や苦し紛れの迷回答に笑い興じたり、予想がつきかねお手上げ・降参の場合などもあって、そうこうするうちに時間が過ぎて、「お待たせしました。ご注文の品です」と、料理が運ばれてくるシーンが目に浮かびます。

答え:1 がばい(ものすごく)  2 そーにゃ(とても、大層な、ひどい)  3 ねずむ(つねる)  11 ぬっ(寝る)  14 あまくらかす(もてあます、食べきれないで残す)  18 あっちゃこし(逆、反対になっている)  20 まちなんか(待ち時間が長い)  29 つーつらつー(すいすいと、淀みなく)  34 ととしか(たどたどしい、不器用だ)  39 いたちょこ(先に行きましょう、行っておきましょう)

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 日高 貢一郎(ひだか・こういちろう)

大分大学名誉教授(日本語学・方言学) 宮崎県出身。これまであまり他の研究者が取り上げなかったような分野やテーマを開拓したいと,“すき間産業のフロンティア”をめざす。「マスコミにおける方言の実態」(1986),「宮崎県における方言グッズ」(1991),「「~されてください」考」(1996),「方言によるネーミング」(2005),「福祉社会と方言の役割」(2007),『魅せる方言 地域語の底力』(共著,三省堂 2013)など。

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。