スリランカでは日常的に多くの言語が併用されています。スリランカの公用語は、シンハラ語とタミル語ですが、教育機関、行政機関などでは、英語が使用されています。アジアの英語は、アメリカ英語の影響が強い地域と、イギリス英語の影響が強い地域に区分されます。スリランカは、1796年から1948年までイギリス領の時代を経て独立しました。そのためスリランカの英語は、イギリス英語の影響を強く受けた方言と考えることができます。
今回は、車に関連することばを集めてみました。最初の例は三輪自動車 (three-wheeled vehicle)を指すことばです。“three wheeler (スリーウィラー)”、トゥクトゥク、オートリクシャと呼ばれます。コロンボには“Metered Taxi【写真1】”もあります。なかには“Air Meter Taxi”と表示しているものもありますが、“Meter”を強調している点で共通しています。窓がないわけですから、“Air”が示すとおり十分すぎるほど外気(?)を顔面にあびることになります。スリランカで、ドア付、窓付、冷房付きの四輪タクシーは、タクシーと呼ばれています。
なぜ“Metered”をつけるのかについてはわけがあります。このタイプの乗り物は、乗る前に料金交渉が必要で、交渉のじょうず、へたによって料金が異なります。メーターをつけて公正な料金で走ることを強調し、庶民の交通機関として生き残りをかけていると考えられます。
タイでは、トゥクトゥク(tuk tuk)、サムローと呼ばれています。トゥクトゥクは、エンジン音が「トゥクトゥク」と聞こえたことから名付けられたと言われています。インドでは、オートリクシャ(auto-rickshaw)と呼ばれるなど、各地で呼び名が変わります。リクシャは日本語「人力車」が語源とされています。日本ではオート三輪と呼んで、1950年代まで貨物用に使われていました。
“Filling Station【写真2】”は、ガソリンスタンド(和製英語)です。アメリカ英語ではgas stationです。地元の人の話によると、スリランカで“Filling Station”と呼ばれるガソリンスタンドは、国産のガソリンを扱う古くからある有人ガソリンスタンドです。外資系のガソリンを扱っている比較的新しいところは、gas stationと言うことが多いとのことでした。
“Car Park【写真3】” は、駐車場を意味することばです。主にイギリス英語で用いられています。Google maps やGoogle trendsで見ると“Car Park”はイギリス、“Parking Lot”はアメリカを中心に分布していて、波及の状況を確認することができます。日本では、東日本で「パーキング」、西日本の一部で「モータープール」と呼んでいます(第132回参照)。駐車場を意味する世界の英語には、car park, park, parking area, parking lot, motor poolなどがありますから、語形をもとに世界言語地図を描くことができます。
編集部から
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。