今回からしばらくは、方言みやげなどに登場する「おいしさ」にまつわる表現について、何回かに分けて紹介していきます(ただし、筆者が担当する回について)。まずは、静岡県伊豆半島で見つけた方言です。“しぞーか”弁(静岡を地元では、“しぞーか”と呼びます)です。
「うめえら!」(おいしいだろう!)【写真1】の「ら」は、推量の助動詞で、共通語の「だろう」の意味です。静岡県伊豆地方だけでなく、愛知県渥美半島、岐阜県美濃、長野県中部地方などにも分布しています。伊豆地方では、「あそこにあるら」(あそこにあるだろう)、「あしたは、雪んふるらなー」(あしたは雪がふるだろう)のように「ら」を使います。
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「ふんとにうみゃあぜ 飲んでみにゃん」(ほんとにおいしいよ 飲んでみて)【写真2】の「ふんとに」は、「ほ」が「ふ」に置きかわって、「ほんとうに」という意味です。「ふんと、ふんと」などと、うなずきながら繰り返したりします。「うみゃあ」(おいしい)は、「う宮(ウミャー)」のように富士宮市でも用いられている例があります【写真3】。
「チョックラ 飲んで みらっしぇ」【写真4】の「チョックラ」は、「ちょっと」の意味です。「ちょっくらちょいと」の形でゴロ合わせで使われることもあります。「ちょっと飲んでみなさいよ」といった意味です。
写真4は、昼時の混みあうマリンセンターで見つけたのですが、インフルエンザの予防のためマスクをしていました。「飲んでみらっしぇ」というので、試飲するためには、マスクをはずさなければなりません。また、聞こえた方言はしっかり書きとめたり、録音しなければならないし、筆記用具、マスク、試飲用のコップ、カメラと手一杯の取材となりました。何事も「ちょっくら」とはいかないのです。
編集部から
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。