タイプライターに魅せられた男たち・補遺

広告の中のタイプライター(56):Remington Junior

筆者:
2019年5月9日
『Popular Mechanics』1915年7月号
『Popular Mechanics』1915年7月号

「Remington Junior」は、1914年にレミントン・タイプライター社が発売したフロントストライク式タイプライターです。当時、一世を風靡していた「Corona 3」を追いかけるべく、レミントン・タイプライター社が開発したのが「Remington Junior」で、本体を折りたたみこそ出来ないものの、小型軽量を目指したポータブル・タイプライターでした。

「Remington Junior」は、28キーのフロントストライク式タイプライターです。プラテンとキーボードの間に配置された28本の活字棒(type arm)は、各キーを押すことで立ち上がり、プラテンの前面に置かれた紙の上にインクリボンごと叩きつけられ、紙の前面に印字がおこなわれます。「Remington Junior」の特徴は、タイプバスケットの上下移動によるシフト機構にあります。活字棒の先には活字がそれぞれ3つずつ埋め込まれていて、通常の状態では小文字が印字されますが、キーボード左下の「CAPITAL SHIFT」を押すと、タイプバスケット全体が持ち上がって、大文字が印字されるようになります。あるいは「FIGURE SHIFT」を押すと、タイプバスケット全体が下がって、記号や数字が印字されるようになります。

「Remington Junior」のキーボードは、基本的にQWERTY配列です。キーボードの最上段は、左端にシフト・ロック・ボタンがあって、大文字側にQWERTYUIOPが、小文字側にqwertyuiopが、記号側に1234567890が並んでいます。真ん中の段は、左端に「FIGURE SHIFT」があって、大文字側にASDFGHJKLが、小文字側にasdfghjklが、記号側に"#$%_&'()が並んでおり、右端に「BACK SPACE」があります。最下段は、左端に「CAPITAL SHIFT」があって、大文字側にZXCVBNM.;が、小文字側にzxcvbnm,-が、記号側に@¼?½*¾/.:が並んでいます。ピリオドがダブっているため、28個のキーに83種類の文字が並んでいるのです。

「Remington Junior」は、ニューヨーク州シラキューズの工場で生産されていましたが、ここは元々スミス・プレミア・タイプライター社の工場でした。1913年にレミントン・タイプライター社がユニオン・タイプライター社を吸収合併した際に、傘下のスミス・プレミア・タイプライター社やモナーク・タイプライター社を統合・整理したのです。目まぐるしい業界再編の中、「Smith Premier No.10」や「Monarch No.3」の技術を元に生み出されたのが、「Remington Junior」だったのです。

『The Rotarian』1914年11月号、上から順に「Remington Standard Typewriter No.10」「Monarch No.3」「Smith Premier No.10」「Remington Junior」
『The Rotarian』1914年11月号、上から順に「Remington Standard Typewriter No.10」「Monarch No.3」「Smith Premier No.10」「Remington Junior」

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。