1913年3月21日、ユニオン・タイプライター社は、業務を全て終了し、翌月4月1日、レミントン・タイプライター社に吸収合併されました。合併に際しオール女史は、「仕事の福音」(The Gospel of Work)と題する記事を、『Remington Notes』誌の1913年7月号に寄せています。
仕事の分野というものは、それこそ無数にあって、しかも変化に富むものなのです。しかし、私たち個々のやるべき仕事が、どの地方にあったとしても、私たちがその仕事を喜んでおこない、そして私たちの力の限りを尽くしたならば、私たちはその仕事をおこなうことに対して、必ずや非常な満足と幸福とを得ることになるでしょう。エマーソン(Ralph Waldo Emerson)の言葉にもあります。「上手にできたことに対する報いは、それができたということだ」
こなすべき仕事を上手におこなった際に起こる小さな賞賛の声に、私たちが満足や幸福を得るべきではない、という意味ではありません。不幸なことに上司たちは、部下たちに対し、欠点や短所ばかりをあげつらい、大事な褒め言葉をかけることは、まずめったにありません。しかし、そのような褒め言葉がなかったとしても、忙しかった一日の終わりに、私たちの良心の中から沸き起こる「よくできた」という小さな声が、私たちの満足の源であるべきなのです。
仕事における適所というものは、かなり漠然としていて、私たちの大半は、私たちの仕事は全く重要なものではない、あるいは、意味があるとしてもほんの少し、と感じていることでしょう。しかし、どんな仕事であっても「よくできた」ならば、その仕事には意味があるのです。これは間違いありません。そして、この地球のどこに私たちの特別な仕事があるとしても、大きな部分だとしても小さな部分だとしても、私たち一人一人にいるべき場所がある、ということを忘れてはいけません。
ユニオン・タイプライター社を吸収合併したレミントン・タイプライター社は、アメリカ国内のみならず、ヨーロッパや南アメリカ、そしてアジアにも販売網を広げていきました。世界に打って出ることで、ダブついた生産量と、ダブついたセールスマンとを、一気に解消する目算だったのです。その際、レミントン・タイプライター社は、各国ごとに異なるキー配列を試していました。たとえば、フランスやイタリア向けには、QとA、ZとWのキーを入れ替えた「AZERTY配列」のタイプライターを輸出しました。生産拠点はイリオンとシラキューズにありましたが、各国の事情に応じて、異なるキー配列のタイプライターを生産することで、タイプライター業界のトップブランドの座を、再び奪還しようとしていたのです。
(メアリー・オール(13)に続く)