梅の花散らす春雨いたく降る旅にや君がいほりせるらむ
出典
万葉・一〇・一九一八
訳
梅の花を散らす春雨がたいそう降っている。(いまごろ)旅先であなたは仮の宿りをしているのだろうか。
(『三省堂 全訳読解古語辞典』〔第四版〕「いほり」)
今回は、梅の花を詠んだ歌を取り上げました。
『全訳読解古語辞典』第四版では、「いたし」のような多義語にあたる重要語に、特別に「図解チャート」を設けてあります。チャートに添えられた解説を読むと、「いたし」が「いたく降る」のように連用形となっている場合、多くは「たいそう」という意味で考えると良いことが、重要なポイントとしてまとめられています。
また、「いたく」は、つい、現代語から「痛く」という意味を連想してしまいがちですが、『全訳読解古語辞典』で「いたし」を引いてみると、以下のような「語義要説」が冒頭に付いており、現代語の「いたく感激した」という用例の語感と結びつけながら、古語の意味を学習することができます。
[語義要説]「いた」は「いと」「いち」などと同源で、程度がはなはだしいの意、すなわち「いたし」は「甚(いた)し」が本義と考えられる。程度のはなはだしさがよい面に表れると、すばらしい、りっぱだの意になり、精神的・肉体的に与える苦痛がはなはだしいなど悪い面に表れると「痛(いた)し」となる。動詞形は「痛む」。なお、「甚し」の連用形「いたく」は、あとにくる動詞を修飾して副詞的に用いられることが多く、程度を表す副詞「いたく」が生まれた。現在でも、「いたく感激した」などという表現で用いる。
このような語義の整理は、たとえば、高校教科書でよく取り上げられる『竹取物語』の「かぐや姫、いといたく泣きたまふ」などという用例の理解にも、役立つでしょう。