ニュースを読む 新四字熟語辞典

第15回 【貨客混載】かきゃくこんさい

筆者:
2020年11月23日

[意味]

貨物と旅客の輸送、運行(運航)を一緒に行うこと。

[関連]

客貨混載

 * 

ここ数年、貨客混載という語を見る機会が増えてきました。日本経済新聞での出現記事件数を見ると2014年までは年に0~2件だったのが、2015年に3件となり「宅配クライシス(危機)」が叫ばれた2017年に22件と急激に増え、2018年には38件にもなりました。

この「貨客混載」の記事件数急増の背景にあるのは、2017年9月の国土交通省による宅配用荷物と旅客を同時に運べるようにする規制緩和でした。それまで旅客輸送は安全確保の観点から貨物とは別に行われていましたが、物流業の危機的な人手不足を受け、荷物と旅客を一緒に運べるようにしたものです。

新聞記事を見ていくと、地方では路線バスやタクシーが宅配荷物を同じ方向に行く人と一緒に載せて運ぶ事例や、スーパーで買った商品をバスで運ぶといった話が出てきます。宅配事業者の人手不足を補ったり、乗り物の空きスペースを有効活用したりするなどの動きや、自動運転車を使った実証実験のニュースも見られました。鮮魚や農産物などの地元特産品を東京などの消費地へ高速バスで運ぶ事例もあるなど、いずれも地方経済の活性化を促す試みです。

そしてコロナ禍の今、貨客混載に新たな動きが出てきました。2020年10月、JR東日本が新幹線を使った貨物の定期輸送を本格的に始めたのです。車内販売用の荷物スペースに鮮魚などを積み込み、仙台駅から東京駅までをまずは平日の週2回運ぶもの。高速鉄道による輸送はトラックよりも速く、時間どおりに運べる利点があるとされ、実証実験を始める同業他社も見られます。新型コロナウイルス感染拡大の影響で旅客収入が落ち込む鉄道各社。貨客混載は収益確保のための手段として定着し、拡大していくのでしょうか。

 

「貨客混載」の登場記事件数

*日本経済新聞の記事を調査。2020年は10月まで。

* * *

新四字熟語の「新」には、「故事が由来ではない」「新聞記事に見られる」「新しい意味を持った」という意味を込めています。

筆者プロフィール

小林 肇 ( こばやし・はじめ)

日本経済新聞社 用語幹事・専修大学協力講座講師。金融機関に勤務後、1990年に校閲記者として日本経済新聞社に入社。長く作字・フォント業務に携わる。日経電子版コラム「ことばオンライン」、日経ビジネススクール オンライン講座「ビジネス文章力養成講座」などを担当。著書などに『マスコミ用語担当者がつくった 使える! 用字用語辞典』(共著、三省堂)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林 第四版』(編集協力、三省堂)、『加山雄三全仕事』(共著、ぴあ)、『函館オーシャンを追って』(長門出版社)がある。2018年9月から日本漢字能力検定協会ウェブサイト『漢字カフェ』で、コラム「新聞漢字あれこれ」を連載中。

編集部から

四字熟語と言えば、故事ことわざや格言の類で、日本語の中でも特別の存在感があります。ところが、それらの伝統的な四字熟語とは違って、気づかない四字熟語が盛んに使われています。本コラムでは、日々、新聞のことばを観察し続けている日本経済新聞社用語幹事で、『大辞林第四版』編集協力者の小林肇さんが、それらの四字熟語、いわば「新四字熟語」をつまみ上げ、解説してくれます。どうぞ、新四字熟語の世界をお楽しみください。

毎月最終月曜日更新。