鈴木マキコ(夏石鈴子)さんに聞く、新明解国語辞典の楽しみ方

新明解国語辞典を読むために その5 この語釈を見よ物件 第1回

筆者:
2022年2月25日

新解さんを読む醍醐味は、なんといっても「この語釈を見よ物件」です。さらに言えば、この物件は、「ああ、この人はよっぽどこれが嫌いなのだろう」という事柄に、その才能が、ぎらりと光る。あまりの見事さに、「あれ、もしかしたら本当は好きなのか」と誤解しそうです。現実の世界にもいますが、嫌いな人を常に見て、自分が相手のどこをどう嫌いなのか、その研究に熱中する人っています。嫌いなら見なければいいのに、と思いますが嫌いだからこそ、じっと見てしまう人。鮮やかな語釈を知れば新解さんがそういう人だと、実感出来るはずです。

p.557「ごまかす」


p.1137「とりつくろう【取(り)繕う】」


まあね、何もしないでそのままだと気まずいから、やるだけやるしかない。突破せよ。

p.1584「やらせ【遣らせ】」


あーあ、こんなにはっきり言っちゃって。

p.1169-170「なれあう【馴(れ)合う】」


p.440「ぐる」


この意味だけだと、別に悪い意味は無さそうなのに。

p.505「こうじつ【口実】」


はい、そうですが、その前に、新解さんに何があったのか心配する。

p.1135「とりえ【取(り)柄・取(り)得】」


取り柄って、もっといい物だと思っていました。なんだか、がっかりした。

p.1462「ぼんよう【凡庸】」


一目でわかるのですね。

p.1407「へいぼん【平凡】」


でも、いい人かも。

p.508「こうじんぶつ【好人物】」


新解さんが好人物ではなくて、そういう人を見て説明していることが伝わります。

p.207「おひとよし【御人好(し)】」


p.357「きだて【気立(て)】」」


気だてがいい、ということは本当にいいことなのか、よくわからなくなりました。

 

筆者プロフィール

鈴木マキコ ( すずき・まきこ)

作家・新解さん友の会会長
1963年東京生まれ。上智大学短期大学部英語学科卒業。97年、「夏石鈴子」のペンネームで『バイブを買いに』(角川文庫)を発表。エッセイ集に『新解さんの読み方』『新解さんリターンズ』(以上、角川文庫)『虹色ドロップ』(ポプラ社)、小説に『いらっしゃいませ』『愛情日誌』(以上、角川文庫)『夏の力道山』(筑摩書房)など。短編集『逆襲、にっぽんの明るい奥さま』(小学館文庫)は、盛岡さわや書店主催の「さわベス2017」文庫編1位に選ばれた。近著に小説『おめでたい女』(小学館)。

 

編集部から

『新明解国語辞典』の略称は「新明国」。実際に三省堂社内では長くそのように呼び慣わしています。しかし、1996年に刊行されベストセラーとなった赤瀬川原平さんの『新解さんの謎』(文藝春秋刊)以来、世の中では「新解さん」という呼び名が大きく広まりました。その『新解さんの謎』に「SM君」として登場し、この本の誕生のきっかけとなったのが、鈴木マキコさん。鈴木さんは中学生の時に出会って以来、長く『新明解国語辞典』を引き続け、夏石鈴子として『新解さんの読み方』『新解さんリターンズ』を執筆、また「新解さん友の会」会長としての活動も続け、第八版が出た直後には早速「文春オンライン」に記事を書いてくださいました。読者と版元というそれぞれの立場から、これまでなかなかお話しする機会が持ちづらいことがありましたが、ぜひ一度お話しをうかがいたく、このたびお声掛けし、対談を引き受けていただきました。「新解さん」誕生のきっかけ、その読み方のコツ、楽しみ方、「新解さん友の会」とは何か、赤瀬川原平さんとの出会い等々、3回に分けて対談を掲載いたしました。その後、鈴木さん自身による「新解さん」の解説記事を掲載しております。ひきつづき、どうぞお楽しみください。