「いちかっこ」「いちまる」の地域差
「いちかっこ」「いちまる」の地域差について、かつて面接調査で確かめたことがある。福島大学半沢康氏との共同研究である。手に入りにくい図なので、ここに一部分を掲げる。日本海沿いに、線状の地域で各年齢層ごとにことばを聞いて回った結果で、「グロットグラム」と呼ばれる図である。図の上が北、下が南、左が高年層、右が中学生で、丸印は使う、△は聞く、線は聞かない、である。
見事に「いちかっこ」が山形県内(日本海沿いの庄内地方)で使われているが、例外もあり、山形県の中年層には「聞く」だけという人もいる。一方新潟県の若い世代にも広がっている。「いちかっこ」が小規模ながら県外に広がっているようだ。なお図を略すが、「いちまる」も調べてある。そっくりの分布だが、新潟県では使う地点数が少ない。「いちかっこ」がまず普及し、「いちまる」があとを追っていると見られる。前述のように、筆者はこの地域の生育だが、「まるいち」は使った覚えがない。この調査の質問文では「かっこいち」と「まるいち」とを2問に分けて質問したわけではないので、違いが出なかった可能性がある。
なお鶴岡市周辺では国立国語研究所の長期経年調査をはじめ、多くの言語調査があり、その結果によると、昔からの方言語彙は、21世紀の若い世代では、使われなくなる勢いが激しい。しかし、付図によると、「いちかっこ」「いちまる」は、活力がある。このまま生き延びるだろう。