人名用漢字の新字旧字

人名用漢字の新字旧字・特別編 (第5回)

筆者:
2009年5月22日

人名用漢字の新字旧字の「曽」「祷」の回を読んだ方々から、常用漢字でも人名用漢字でもない漢字を子供に名づけたいのだが、どうしたらいいのか、という相談を受けました。それがどれだけ大変なことかを知っていただくためにも、あえて逆説的に、「人名用漢字以外の漢字を子供の名づけに使う方法」を、全10回連載で書き記すことにいたします。

家庭裁判所での審判

あなたから家事審判申立書を受け取ったあと、家庭裁判所は、対する市町村長に意見書を求めます。

ただし、市町村長の意見書と言っても、現実には、市長みずからが意見書を書くわけじゃありません。市役所側は、管区の法務局を経由して、戸籍行政のトップである法務省にお伺いを立てます。あなたの申立書は、法務省令(戸籍法施行規則)を差し置いて、法律(戸籍法)で司法判断することを裁判所に求めているわけですから、その法務省令に関して、市役所側が法務省にお伺いを立てるのは、ごくアタリマエのことです。その上で、市町村長の意見書が家庭裁判所に提出されるのです。

家庭裁判所の裁判官は、あなたの申立書と市町村長の意見書を読み比べて、問題の漢字が「常用平易」かどうか審判をくだします。あなたの申立てが認容されるか却下されるか、全ては「常用平易」かどうかの判断にかかっているわけです。その漢字に対する親心など、審判では全く無視されると言っていいでしょう。なお、申立てから審判まで、2~6ヶ月を要します。

申立てが却下された場合

却下された場合は、審判から2週間以内に、再び家庭裁判所に出向いて、即時抗告の申立てをおこないます。即時抗告というのは、大雑把に言えば、家庭裁判所の審判に納得がいかないので高等裁判所の判断を仰ぎたい、ということを家庭裁判所で申立てるものです。

即時抗告申立書の『抗告の趣旨』には、原審(家庭裁判所での審判)の事件番号と審判主文が必要ですので、審判書を必ず持参して下さい。『抗告の理由』には、審判理由に対する反論を書くことになるのですが、その背後には市町村長の意見書があるはずですから、できれば家庭裁判所であなたの事件記録を閲覧・コピーして、意見書の内容を事前に理解しておくべきでしょう。また、即時抗告を家庭裁判所に申立てる際は、実際に抗告審を担当する高等裁判所の窓口と電話番号は、必ず確認しておいて下さい。

申立てが認容された場合

認容された場合は、審判から2週間以上が過ぎた後、家庭裁判所に、審判書謄本と審判確定証明書の交付を申請します。審判書謄本と審判確定証明書が送られてきたら、最初に不受理だった出生届と一緒に、市役所に提出します。市役所によっては、他にいくつか書類を書かなければならないかもしれませんし、実際の手続に1~2週間かかってしまうこともあります。これで、戸籍上に、本当の子供の名が記載されることになります。

しかし、家庭裁判所の審判で申立てが認容されたにもかかわらず、審判確定証明書が交付できない場合があります。市町村長が即時抗告した場合です。この場合については、また次回(第6回)にいたしましょう。

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター准教授。京都大学博士(工学)。JIS X 0213の制定および改正で委員を務め、その際に人名用漢字の新字旧字を徹底調査するハメになった。著書に『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字コードの世界』(東京電機大学出版局)、『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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