国漢文辞典
明治39年(1906)10月5日刊行
三省堂編輯所編/本文1758頁/四六判半裁(縦125mm)
「国漢文」という書名のとおり、国文と漢文の両方をミックスした辞典。本文には、漢字1字の字音項目が豊富にあり、熟語は独立した項目による五十音順である。書名に「国語漢文」を冠した辞典は、すでに他社から刊行されていたが、例言に「前人未発の編纂法を取りたる創作の新字典なり」とある。ただし、この辞典は「前人」「未発」を掲載していない。
本書の三分の一は、中等教科書にある難解な単語、熟字、古語、俚諺、格言、専門用語を載せた。そして、読書・作文に必要ない俗語、方言、漢字などは採録しなかったという。そのせいで、「犬」はあっても「猫」の項目はないのである。
巻頭に漢字索引(計177頁)があり、読み方が分からない漢字が引けるようになっていることは、当時の五十音引き辞典になかった工夫だ。また、字音便覧(71頁)もあって、字音の仮名遣いが分かるようになっている。たとえば、「コー」と発音する字音の歴史的仮名遣いは「かう、こう、かふ、こふ、くわう」があり、紛らわしくて覚えにくい。さらに、それぞれを呉音・漢音・慣用音に分けて掲載してあるから、同じ字に複数の字音仮名遣いがある理由がはっきりする。
簡便な辞典として好評だったため、大正7年(1918)には3段組に変えた縮刷版(本文782頁)が刊行された。
●最終項目
をんわ〔温和〕①気象のおだやかに、落ち付きてあること、すなほにおとなしきこと。②気候の暖かにして、のどかなること、寒熱其の中を得ること。
●「猫」の項目
不掲載
●「犬」の項目
いぬ〔犬 狗〕①獣の名、家に飼養し、善く人に馴る、其の種類甚だ多し。②まはしもの、間者。