ABCびき日本辞典
大正6年(1917)6月1日刊行
井上哲次郎・服部宇之吉・新渡戸稲造・大沢岳太郎・横井時敬・草野俊助・江木衷・佐伯勝太郎共編/本文2344頁/四六判変形(縦188mm)
見出しが和英辞典のようなアルファベット順になっている日本語の辞典である。見出しにローマ字を採用したのは、歴史的仮名遣いの不便を軽減するためであろう。特に字音語の仮名遣いは正確に覚えにくいため、見出しを発音式仮名遣いにした辞典も明治45年(1912)に出始めていた。
アルファベット順の国語辞典が刊行され始めたのは大正4年だった。冨山房の『ローマ字びき国語辞典』(のちに『ローマ字で引く国語辞典』)と啓成社の『ローマ字索引国漢辞典』(のちに『ABC引きポケット辞典』)である。
本書は収録数が約9万3000項目あり、先行の小型ローマ字引き国語辞典の3~4倍ほどになる。収録した語は、死語を省いて有用なものを網羅し、百科辞典の性質を備えている。それもそのはず、大正元年に第6巻を出したところで中断してしまった『日本百科大辞典』の編集員を従事させて作られたものだった。
そのせいか、百科項目が充実している反面、国語項目が手薄となって副詞や接続詞などは載せていない。したがって、他の国語辞典とは大幅に違って、主体となる百科項目に国語項目を付け加えたかたちの内容である。その語釈やカットには同社の『辞林』(明治40年・1907)などからの流用も見られる。
見出しのローマ字表記は基本的に改正ヘボン式だが、「ん」に相当する撥音は「n」だけを使い、助詞の「を」に「wo」を用いている点は異なっている。語構成はハイフンで表し、活用語の語尾は表示されていない。
品詞の表示はなく、動詞・形容詞だけは活用の種類などを語釈の後に記載してある。仮名遣いは、歴史的仮名遣いを誤りやすい語に限り、見出しの後にカタカナで掲載。漢字表記欄は送り仮名を省いている。
なお、凡例の最後に「略語及記号表」を載せるが、次の頁にほとんど同じ「略語表」を掲載しているから不思議である(国会図書館所蔵本では切り取られている)。そして、巻末には56頁分の「難訓索引」が付された。
●最終項目
Zuzu-tsunagi(ズズ―)[数珠繋]数珠玉を繋ぎつらぬきたるが如く、多くのものを繋ぐこと、罪軽き囚人を多く縛するなどにいふ。
●「猫」の項目
Neko[猫](い)【動】食肉類中猫科に属する小獣、多く人家に飼養せらる、頭円く尾長し、体軀は狭長にして屈伸自在なり、毛色種々あり、夜間は瞳円大なれども日中には豎針状となる、よく鼠を捕ふ。(ろ)芸者の異称。(は)知りて知らぬさまをなすこと、又其人。(に)本性をつつみかくして平凡をよそほふこと、又其人。(ほ)土製の「あんくゎ」の称。〘東京〙
●「犬」の項目
Inu[犬、狗](い)食肉類の目に属する動物、世界到る所に家畜として飼養す、体軀伸張し、胸部濶大に腰辺狭小、吻端前方に突出し口角深く後方に裂く、種類甚だ多し。義畜。(ろ)密告者。(は)間諜。探偵。まはしもの。
◆辞書の本文をご覧になる方は
ABCびき日本辞典: