日本語社会 のぞきキャラくり

補遺第76回 入試について

筆者:
2014年12月28日

本編では,言語研究やコミュニケーション研究に有益な概念として「キャラクタ」を導入するのに主な労力を費やし,その他に言及する余裕がほとんどなかった。この補遺では「その他」のあたりを思い切り補わせてもらっている。

たとえば「アイドルはトイレに行かない」発言に始まり,化粧,カツラ,整形,根付けなど,ことば以外の日本の文化風習を取り上げる一方で,「キャラクタ」がはっきり現れない外国の社会がどうなっており,それに対して日本の社会がどうなっているのかも,補遺で論じている。

キャラクタとことばとの関わりについても,本編がほとんど発話キャラクタとそのことば(役割語)の話に終始したのに対して,補遺では表現キャラクタやラベルづけられたキャラクタについて具体的な紹介を加え,さらに思考キャラクタという,本編では想定されていなかったキャラクタも観察できた。発話キャラクタと役割語についての,わずかな修正も補遺でおこなった。

補遺を書いている間に,「キャラクタ研究者」としての私を取り巻く環境も,多少は変わってきた。私からキャラクタのキャの字も言い出さないうち,先方から「キャラで」と言われた招待講演だけでも,ロシアでのシンポジウム(2013年3月16日,ノボシビルスク市立「シベリア・北海道」文化センター),フランスでの国際会議(2014年4月4日,ボルドーモンテーニュ大学),スロベニアでの国際会議(2014年8月26日,リュブリャーナ大学)があり,これに「たとえばキャラクタなんか,テーマとしてどうですか」「ぜひそれで」というパターンを加えると件数は倍以上になる。これらとは別に,自分で企画・応募したキャラクタのパネルセッションもあり,無事に採択・実施されている(2013年9月6日,コンプルテンセ大学(マドリード))。

もちろん,これは日本のアニメやハローキティなどのいわゆる「キャラクター」群,さらには「かわいい」といったことばが国内外で流行し,その余波が私のところまで来ているということであって,私のキャラクタ研究によるところなどは,,,少しはあるかもしれない。

こういう話,つまりキャラクタをめぐる世間とのつながりも本編ではできなかったから,ぼちぼち,述べていきたい。まずは入試である。

「國學院大學」の「神道文化学部」と聞けば,私などは「神主さんを養成するところ」などと思ってしまうが,実際はここは日本人学生だけでなく外国人留学生もちゃんと募集しているという。時代の流れじゃのぅ。

当然ながら,外国人にも入学試験が課せられる。そして平成25年11月24日に実施された平成26年度の入試問題(日本語小論文)は,文学部との共通問題で,なんと本編をまとめた『日本語社会 のぞきキャラくり』が取り上げられている。それも「まえがき」の部分,つまり「オレと結婚しろニャロメ!」や「ウソだよぴょーん」などを取り上げた本編第1回の話がほぼそのまま出ている。

あのー,この試験,ホントに留学生用ですか? それも,「神道文化学」を学ぼうとする外国人留学生用? むしろそういう人たちは「古事記」とか「万葉集」とかはわかってほしいけど,「ニャロメ!」とか「ぴょーん」とかは,あんまりわかってほしくないんですけど,なんて思うのはもう古いってことか。

時代の流れじゃのぅ。

筆者プロフィール

定延 利之 ( さだのぶ・としゆき)

神戸大学大学院国際文化学研究科教授。博士(文学)。
専攻は言語学・コミュニケーション論。「人物像に応じた音声文法」の研究や「日本語・英語・中国語の対照に基づく、日本語の音声言語の教育に役立つ基礎資料の作成」などを行う。
著書に『認知言語論』(大修館書店、2000)、『ささやく恋人、りきむレポーター――口の中の文化』(岩波書店、2005)、『日本語不思議図鑑』(大修館書店、2006)、『煩悩の文法――体験を語りたがる人びとの欲望が日本語の文法システムをゆさぶる話』(ちくま新書、2008)などがある。
URL://ccs.cla.kobe-u.ac.jp/Gengo/staff/sadanobu/index.htm

最新刊『煩悩の文法』(ちくま新書)

編集部から

「いつもより声高いし。なんかいちいち間とるし。おまえそんな話し方だった?」
「だって仕事とはキャラ使い分けてるもん」
キャラ。最近キーワードになりつつあります。
でもそもそもキャラって? しかも話し方でつくられるキャラって??
日本語社会にあらわれる様々な言語現象を分析し、先鋭的な研究をすすめている定延利之先生の「日本語社会 のぞきキャラくり」。毎週日曜日に掲載しております。