前回は「ゆるキャラ」について命名者・みうらじゅん氏の定義を紹介し,「ゆるキャラ」が物語を必ずしも伴わずに制作されるということを述べた。だがこの話は,「キャラクタ(ここでは登場人物の意)にとって,登場すべき物語は本当に必要か?」という問題意識のもとで述べたこと(補遺第78回・第79回・第80回)と重なっている。なぜ重なったかというと,今さらではあるが,「ゆるキャラ」の「キャラ」とは伊藤剛氏・相原博之氏・瀬沼文彰氏・土井隆義氏・暮沢剛巳氏らの言われる専門語「キャラ」や私の言う専門語「キャラ(クタ)」ではなく,いわゆる登場人物を指す一般語「キャラクタ」の略語だからである。
いかんいかん,話が重なってしまった,というわけで,「ゆるキャラ」独自の話をしよう。みうら氏の「ゆるキャラ」の定義を(1)に再掲する。
(1) ゆるゆるのキャラクターを「ゆるキャラ」と呼ぶことにした。ちょっと待って,ゆるキャラの皆さん,怒らないでよく聞いて。
ゆるキャラとは全国各地で開催される地方自治体主催のイベントや,村おこし,名産品などのPRのために作られたキャラクターのこと。特に着ぐるみとなったキャラクターを指す。日本的なファンシーさと一目見てその地方の特産品や特徴がわかる強いメッセージ性。まれには,郷土愛(ラブ)に溢れるが故に,いろんなものを盛り込みすぎて,説明されないと何がなんだか分からなくなってしまったキャラクターもいる。キャラクターのオリジナリティもさることながら,着ぐるみになったときの不安定感が何とも愛らしく,見ているだけで心が癒されてくるのだ。[みうらじゅん『ゆるキャラ大図鑑』pp.2-3, 扶桑社, 2004]
第1段落は「ゆるキャラ」のゆるさを,第2段落は「ゆるキャラ」の地方性を述べたもので,まとめると,地方ゆえのゆるさが「ゆるキャラ」の定義の中核概念と言えるだろう。
みうら氏は第2段落では着ぐるみという形態にも触れられており,これも「ゆるキャラ」であるための前提と犬山秋彦氏は見なされる(犬山秋彦「はじめに ゆるキャラとは何か」犬山秋彦・杉元政光『ゆるキャラ論:ゆるくない「ゆるキャラ」の実態』pp. 13-14,ボイジャー,2012)。だがここでは,着ぐるみという形態をとることは「ゆるキャラ」の定義には含まれないと判断しておきたい。
というのは,一つには,犬山氏が杉元政光氏とおこなったみうら氏へのインタビューの中で,みうら氏が「立体化しなくても,イラストだけで「ゆるキャラ」っていう考え方もある」と述べられているからである(特別インタビュー 犬山秋彦・杉元政光『ゆるキャラ論:ゆるくない「ゆるキャラ」の実態』p. 386,ボイジャー,2012)。
また,みうら氏は別のところでも(2)のように,
(2) “ゆるキャラ”というのは決してミッキーではなく,決してキティではない,地方自治体が生み続けている,それはそれはゆる~いキャラクターのこと。 [みうらじゅん『キャラ立ち民俗学』角川書店, p. 85, 2013]
「ゆるキャラ」を地方ゆえのゆるさという形で,そして「着ぐるみ」への言及なしで紹介しているからである。(続)