ことばを発するキャラクタの格はとりあえず4類に大別できるとして、『特上』『目上』『目下』について説明してきた(第61回・第62回)。では、最後に残る4つ目の格とは何だろう?
『中』か? いや、そんなものは必要ないと、前回の末尾でも言ったばかりである。では何か?
答は『ごまめ』、あるいは『みそっかす』である(以下は仮に『ごまめ』で通す)。
知ってますか、『ごまめ』。子供たちの遊びの中に入れてもらっている、ひときわ年齢の低い子供。鬼ごっこをしても何をしても、足の遅いその子にだけは特別ルールが適用され、タッチされても鬼にならない。皆と同じようにワーと騒いで、鬼から逃げて喜んでいるが、実質的には遊びに参加していない、そういう幼い子のことである。「そんなの知らない」と言う人は、菅原創・中島賢介(2005)「ごまめ・みそっかすの研究 : 伝承文化としての異年齢の仲間集団における特別なルールに関する調査(1)」(『北陸学院短期大学紀要』第37号、13~24ページ)でも読んで勉強しなさい。
『ごまめ』のキャラクタは、丁寧なスタイルを持たず、もっぱらぞんざいなスタイルでしゃべる。まことに無礼な奴だが、それで仕方ないものと赦され、無邪気でいいやと認められている。もうお分かりと思うが、ここで言う『ごまめ』とは、『目下』のさらに下、最低の格のことであって、典型的な『ごまめ』キャラクタは低年齢の子である。
『ごまめ』は『特上』とは対局にあるはずで、実際、両者は明らかに異なっている。たとえば、「わし」などと言えるのは『特上』だけであって『ごまめ』は言えない。だが、両者が意外にも似通う部分を持っているのは、身過ぎ世過ぎにいそがしい『目上』『目下』から離れた者どうしというところだろうか。
「ハマチ」と呼ばれている魚がやがて成長して「ブリ」という新しい名で呼ばれるように、最初『ごまめ』一辺倒だった幼児は成長するとやがて、『ごまめ』を基本キャラとしながらも幼稚園や学校で先生や他の子と話すといった、限られた場面では『目下』として、さらには『目上』として振る舞い、いっぱしの大人の口をきくということがポツポツと出てくる。そのうちにすっかりそちらが基本になる。ついには『ごまめ』は卒業、……いや、どうなんだろう? 親や配偶者に対して丁寧なスタイルでしゃべったことがないという人は、いないわけではない。その人はいまでも内弁慶ならぬ内『ごまめ』なんだろうか?