地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第23回 日高貢一郎さん:「どげんかせんといかん」のその後

2008年11月15日

毎年12月になると、恒例の「新語・流行語大賞」が発表され、ことし話題になったことばを通してあらためてこの一年をふり返り、世相を見つめ直すことになります。

去年の大賞は、宮崎県の東国原英夫知事の言った「どげんかせんといかん」と、高校生ゴルファーの石川遼選手を評した「ハニカミ王子」の2つでした。前者について、その後どうなっているか、宮崎県での一端を見てみましょう。

「どげんかせんといかん」は、もちろん〔どうにかしないといけない〕という意味で、東国原氏の、宮崎県知事選や県議会での所信表明演説での発言がマスコミなどでしばしば紹介されて話題になり、「新語・流行語大賞」では初の“方言による表現での大賞受賞”になりました。

最近の世の中、確かに「どうにかしないといけない!」と思うことが多く、それもこのことばが思い起こされ、引き合いに出される大きな理由の一つでしょう。

方言の分布から言うと、「どげんか」は宮崎県では南西部の都城市や小林市・えびの市など、旧薩摩藩の地域で使われており、その他の宮崎県の広い範囲では「どんげか」になります。東国原知事は都城市の出身ですから、「どげんかせんといかん」はまさに自分が思ったそのまんまを、自身の方言で、率直に実感を込めて言い表したものでした。

地元・宮崎でも、この語は新聞紙面、ポスター、パンフレット、チラシ、その他でもしばしばお目にかかり、見かける機会が非常に増えています。

①クリーニング店の店頭には、「そのシミ、どげんかせんといかん」という知事の似顔絵姿入りののぼりがはためいています(19年8月に作製)。宮崎県庁のすぐ近くには、②「どげんかせんとい館」という名前を付けたレストランも登場し(19年11月開店)、また、③この語をそっくり使って命名した焼酎も発売されました(20年7月発売。その醸造元は「どんげか」地域にあるのですが……)。

宮崎県庁の風情のある古い建物は観光名所になり、大勢の観光客が連日、バスで訪れる状況が今も続いているとのこと。

県庁の隣にある、宮崎の特産品などを販売する「宮崎県物産振興センター」をのぞくと、知事の似顔絵をあしらったパッケージに包まれた商品や、似顔絵と④「どげんかせんといかん」などと書いた小さなシールが貼られた品々などが、ところ狭しと並べられています。

「宮崎県をどげんかします!!」「宮崎県をどげんかします!!」

【写真1 「宮崎県をどげんかします!!」】

その中に、値段も安くて手軽なお土産に…ということでしょう、⑤クリアファイルに「MIYAZAKI WO DOGENKA SENTOIKAN !!!」とローマ字で書いたものと、それに答えるような「宮崎県をどげんかします!!」と書いたものもありました【写真1】。

地元の音楽グループが作詞・作曲した⑥CD「どげんかせんといかん」という曲も並んでいました。(これも、「どんげか」と言うはずの地域のメンバーが作っているのに……)。

「宮崎はここやが!」

【写真2 「宮崎はここやが!」】

また、最近、とかく話題になって注目度の高い宮崎県ですが、日本地理学会の調査によると、10の都県の位置を高校生に聞いたところ、宮崎県が地図上のどこにあるかを正しく答えられなかった割合が57%と、最も多かった由(20年3月発表)。その不名誉な結果を逆手にとり、日本地図の上に宮崎県を赤く示し、「宮崎はここやが!」〔宮崎はここだよ!〕としっかりアピールしたTシャツも展示してありました【写真2】。

「どげんかせんといかん」に端を発した宮崎県でのこの(方言)ブームは、まだまだ当分続きそうな勢いです。

【参考】なお、上記①についてより詳しくは、株式会社「ユーライズ」 (宮崎県の他に、大分県、埼玉県の店頭でものぼりが立てられている由)、②は「どげんかせんとい館」、③は「西の都酒造」 、の各ホームページを参照。写真なども見ることができます。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 日高 貢一郎(ひだか・こういちろう)

大分大学名誉教授(日本語学・方言学) 宮崎県出身。これまであまり他の研究者が取り上げなかったような分野やテーマを開拓したいと,“すき間産業のフロンティア”をめざす。「マスコミにおける方言の実態」(1986),「宮崎県における方言グッズ」(1991),「「~されてください」考」(1996),「方言によるネーミング」(2005),「福祉社会と方言の役割」(2007),『魅せる方言 地域語の底力』(共著,三省堂 2013)など。

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。