観光客を歓迎する標語には、各地の方言の「いらっしゃい」が使われています。西日本各地の例を第32回にあげました。第34回で、滋賀県長浜市の広報誌の「きゃんせ」が出ています。
以下に東日本の実例をあげます。「おいで」系の表現が全国に広がっているので、黄色にしてみました。
(画像はクリックで拡大します)
中部 最近JRのポスターで「にいがた 来なれて」【写真1】というのを見つけました。「きなれ」と読みます。以下の例も「来る」を活用させています。「冬の新潟へ雪を見にこらっしゃい」、「パノラマキトキト富山に来られ」(こられと読みます)、「信州長和町へ きなんし」。
関東 関東地方は、東京と似た言い方になるので方言の活用には不利です。JRポスターの「おいでよ房総」は方言とは受け取られないでしょう。方言らしい言い方では「来らっせ宇都宮」が頑張っています。読み方は2種類あります。商工会議所直営の「おいしい餃子とふるさと情報館」は”来(き)らっせ”です。市内の店では「きらっせ」「こらっせ」両方の振りがながついています。本来の栃木方言なら「きらっせ」です。
東北 東北地方はことばが変わっていますから、意味が通じないかもしれません。
「おでんせ」は岩手県の盛岡・遠野・宮古などでたくさん見られます(第36回参照)。民話のふるさと、遠野では「よーぐおでんすたなす」ともっと丁寧に迎えてくれます(第31回参照)。
盛岡駅前では【写真2】、「よぐおでんした」が、外国語(英語、中国語簡体字・繁体字、韓国語、ドイツ語、フランス語、スペイン語)と対等に並んでいます。かつては標準語の下に位置づけられ、撲滅の対象にされた東北方言が、華々しく国際舞台に踊り出たわけです。
「かさまい」は、青森県下北半島、むつ市のパンフレットで使われていました【写真3】。「来さまい」と書いて「か」と振り仮名を付けていますが、よその人には意味が通じないでしょう。
アイヌ語 なお北海道の一部の観光施設には、アイヌ語で「イランカラプテ」と書いてあります。アイヌ語は日本語とは別系統の言語です。実用に供されることはほとんどなかったのですが、観光用に生命力を得たわけです。
「有名な観光地のない県では、方言で売り込むしかない」という説をたてようとしたのですが、京都のような例外があって、うまく行きません。
ところで、インターネットで検索したら、貴重な情報がありました。
「Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜」「第130夜 キャッチフレーズに見る方言」です。そのうち「歓迎の方言」を探したら。次が見つかりました。
青森県 | むつ市 | 来さまい、見さまい、あがさまい |
新潟県 | 岩室村(現:新潟市) | よりなれ!いわむろ |
富山県 | 福岡町(現:高岡市) | またこられ |
滋賀県 | 野洲町(現:野洲市) | おいで野洲!いいところ |
島根県 | 西郷町(現:隠岐の島町) | ござんせ隠岐へ |
島根県 | 美都町(現:益田市) | きんさい |
島根県 | 弥栄村(現:浜田市) | きんさい |
色々なルートをたどると、もっと見つかりそうです。きっと道路沿いの看板でも使われているでしょう。まだまだ不十分な資料ですから、情報をいただけたら幸いです。