第31回は復習でしたが,そのなかで「方言メッセージ」の《方向》について珍しい例も出して説明しました。
そのときに,「よーぐおでんしたなす 民話のふるさと遠野さ」(第31回の「写真3」)は,観光の「方言メッセージの基本型」,と解説しました。
そうなのです。観光の方言メッセージには,一定の『型』があるのです。「いらっしゃいませ」もしくは「いらっしゃいました」の意の方言と,「地名」または「地名+『-へ』の方言」で構成されるのが基本の型です。
続く第32回(井上先生ご担当)では,西日本各地の例で,これをメインテーマにしていただきました。
第32回のとおり,「おいでませ山口へ」が観光の方言メッセージの原型です。今でもこれは,山口県観光協会の不滅の大見出しとして使われています【写真1】。
東日本でもこの構成が基本型です【写真2】。第31回「写真3」の「よーぐおでんしたなす 民話のふるさと遠野さ」は,「よーぐ」や土地のキャッチフレーズを地名の前に付けるなど,少し足されていますが,根幹の構成は基本型です。
前半部は,「誘致」では「いらっしゃいませ」の方言,「歓迎」では「いらっしゃいました」の方言と,少し表現が異なりますね。地名以降の部分がないのも基本型の一種です【写真3】。
さらに,「いらっしゃいませ」の部分と地名の順序が逆になった例もあります【写真4】。「逆」と言っても,元の「おいでませ 山口へ」が倒置法を使っているので,日本語の普通の語順にしただけですね。
東京発信のものもあります【写真5】。東京都交通局が都営地下鉄の駅に出している広告で,メッセージ自体は全くの基本型です。ただし,二重の意味を持たせたちょっと珍しい例です。訪れてほしい観光地は伊豆の八丈島なのですが,広告主の東京都交通局にはもう一つの目的,羽田空港への都営地下鉄の利用促進があります。
基本型の変種の中でも珍しい例が【写真6】です。誘致でも歓迎でもなく,来て帰ろうとするお客にリピーターになってくれることを希望したメッセージです。~この左側に「民話のふるさと」のキャッチフレーズもあるのですが,今の季節は雪で隠れています。桜が咲くころには見えるようになるでしょう~
ところで,観光の方言メッセージには,他の構成型もあります。私の担当の次回=第41回では,それらの話を準備しています。今回のような基本型をもとに,他の内容を多く加えたものがあります。「よぐ来たなはん ついでに、あちこちよく見でくなんせ」(よくいらっしゃいました。この機会にあちこちよく見てくださいな)などです。『応用型』と呼びましょう。さらに,「いらっしゃい」も地名も入っていず,基本型とは,根本的な組み立てが異なるものもあります。「温泉さ入つて心もからだもぬぐだまつぺえす」(温泉に入って心も体も温まりましょう)などです。『発展型』と呼びましょう。第41回もお楽しみに。