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第29回 【市中感染】しちゅうかんせん

筆者:
2022年1月31日

[意味]

通勤途中や繁華街での人との接触など日常生活で病原体に感染すること。新型コロナウイルスでは、感染ルートが特定できない場合にも使われる。

 * 

「市中感染」が急激に広がっています。新型コロナウイルス感染の話ではありますが、感染者数の増加を言っているわけではありません。新聞で「市中感染」という語が使用される回数が急増していることであり、意味にも広がりが見えているのです。

日本経済新聞の朝夕刊(地域経済面を含む)で「市中感染」が初めて登場したのは2003年10月29日付夕刊で、重症急性呼吸器症候群(SARS=サーズ)を取り上げた記事の見出しでした。それ以降2019年までに出現した記事は年に0~1件しかありませんでしたが、新型コロナの感染拡大により2020年になって145件と急増し、2021年は201件にもなってしまいました。

「市中感染」と言えば「病院などの医療機関に立ち入らず日常生活を送っている人が、感染症にかかること」(デジタル大辞泉)で、従来は「院内感染」の対語とされてきました。2019年までの記事でも「医療機関外での感染」の意味で使われています。それが2020年になり、「感染源を追えない」「感染経路が確認できない」ような場合も「市中感染」と言うようになってきました。意味に広がりが出たといったところでしょうか。

2021年の秋以降、国内では新型コロナの新規感染者数がしばらく減少傾向ではありましたが、年末ごろから新たに変異ウイルス「オミクロン型(オミクロン株)」の市中感染が出始めました。年明けはまさに感染が急拡大した状況。2022年こそは感染者の減少はもちろんのこと、「市中感染」の出現記事が減る年になってほしいものです。

 

「【市中感染】しちゅうかんせん」の登場記事件数
*日本経済新聞の記事を調査。

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新四字熟語の「新」には、「故事が由来ではない」「新聞記事に見られる」「新しい意味を持った」という意味を込めています。

筆者プロフィール

小林 肇 ( こばやし・はじめ)

日本経済新聞社 用語幹事・専修大学協力講座講師。1990年、日本経済新聞社に入社。日経電子版コラム「ことばオンライン」、日経ビジネススクール オンライン講座「ビジネス文章力養成講座」などを担当。著書に『マスコミ用語担当者がつくった 使える! 用字用語辞典』(共著、三省堂)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林 第四版』(編集協力、三省堂)などがある。日本漢字能力検定協会ウェブサイト『漢字カフェ』で、コラム「新聞漢字あれこれ」を連載中。

編集部から

四字熟語と言えば、故事ことわざや格言の類で、日本語の中でも特別の存在感があります。ところが、それらの伝統的な四字熟語とは違って、気づかない四字熟語が盛んに使われています。本コラムでは、日々、新聞のことばを観察し続けている日本経済新聞社用語幹事で、『大辞林第四版』編集協力者の小林肇さんが、それらの四字熟語、いわば「新四字熟語」をつまみ上げ、解説してくれます。どうぞ、新四字熟語の世界をお楽しみください。

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