第39回では、「もてなしの方言(東海地方)」について、か弱い足(か細いとはいいにくいです!)で集めたパンフレットや広告をご覧にいれながら紹介しました。引き続き今回も関東・甲信越地方について、もてなしの方言を紹介しようと思います。
(写真はクリックで拡大します)
栃木県宇都宮市、千葉県銚子市には、「来(き)らっせ」(写真6・宇都宮)、「きらっせ」(写真8・銚子)があります。「きらっしょ」も栃木では使われています。丁寧語の「いらっしゃい」「来てください」の意味です。地理的に両県は、関東地方に属していますから共通語化が進んでいると思われますが、まだまだ方言ががんばっています。千葉県に隣接する茨城県の方言にも「きらっしゃい」「きらっさい」「きらっせ」があります。茨城県神栖市では、夏「きらっせ祭り」が開かれます。「きらっせ」は、東北方言の影響を受けたともいわれています。埼玉県の一部では、共通語の「来(こ)ない」を「来(き)ねえ」と言います。新潟の「ようきなった」(写真4)、「来(き)なれて」(第37回・新潟)なども同じ流れをくむものでしょう。
「おいでなんしょ」(写真5・長野)は、「おいでる(「来る」の尊敬語)」からきたことばで、「おいでんか(いらっしゃいませんか)」(富山)、「おいでたか(いらっしゃったか)」(高知)、「おいでちおくれんなんしー(いらっしゃってください)」(大分)など広く分布する形です。
「いかざあ」(写真1・山梨)は、「行こう」という意味ですが、少し古めかしい方言です。
「いくべ(いきましょう・写真9・千葉)」は、「行ぐべー」「行ぐだんべー」「行くんべえ」の形で埼玉でも使われています。推量の助動詞「べし」で、話し手の意志を表す、また、相手を誘う意味があります。「原稿書き終えたら花見にいくべ!」のように使います。茨城の若者は「いぐっぺ」「いくっぺ」「来んべ」を使っています。福島でも「ライブ、いくべか」です。千葉でも、「仕事をやっぺ」など、方言から若者言葉への影響が見られます。
もてなしの方言(甲信越・関東地方) | |||
---|---|---|---|
写真1 | いかざあ | (※甲州方言番付表) | 山梨県 |
写真2 | 来てみねか | 十日町市 | 新潟県 |
写真3 | 来ねえかね | 新潟県央 | |
写真4 | ようきなった | 新潟市 | |
写真5 | おいでなんしょ | 天竜村 | 長野県 |
写真6 | 来らっせ | 宇都宮市 | 栃木県 |
写真7 | よってかねえーかい | 秩父郡 | 埼玉県 |
写真8 | きらっせ | 銚子市 | 千葉県 |
写真9 | いくべ | 銚子市 |
(※山梨についてはパンフレットではなく方言番付表に基づいています。)
編集部から
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。