地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第107回 井上史雄さん:スコットランドの英語方言と赤いヒース
English dialect in Scotland and red heath

筆者:
2010年7月10日

1990年イギリス滞在中に、イギリス各地の方言についての資料を集めました。スコットランド方言のカセットテープが目についたので、発行元Scotsounを訪問することにしました。尋ねあてたら、住宅地の一角の個人の家でした。いろいろ話をうかがい、「経済的に成り立ちますか」と尋ねたら、「興味深い質問です」と答え、具体的な説明をしませんでした。個人の資金をつぎ込んでいるだろうと判断しました。

お別れの記念にヒースの赤い花をくれました。『嵐が丘』でも登場するヒースの花は、実物を確かめたかったのですが、もう季節を過ぎていて、車窓からは見えませんでした。単純に喜んで、ありがたく頂戴し、「赤いヒースは珍しい。大事に飾る」と言ったら、説明してくれました。赤いヒースを手にした人はもう一度その地を訪れることになるそうです。でもその後スコットランドに足を伸ばす機会はありませんでした。

今インターネットでScotsounを検索すると、組織は大きくなり、Scots Language Societyのホームページ(Hame Page)の中にあります。ScotsounはScot soundの方言風のつづりです。解説文のつづりもスコットランド英語を写しています。
   //www.lallans.co.uk/audio_cds.html

たくさんのCDが出て、しかもマークのあるCDをクリックすると、スコットランド方言の音声が聞けます。例えば下のページです。
   Largo by Sydney Goodsir Smith, read by Neil MacCallum (from SSC 142)
   //www.lallans.co.uk/sscd%20069%20-%20Lang%20Syne%20in%20the%20East%20Neuk.html

Scotsounのホームページの中に人物写真がありました。その人に見覚えがあります。20年後にインターネット経由でその地を訪れたわけです。一方的ですが……。

ちなみに、スコットランドの方言みやげも、Googleで“Scottish dialect”と入力して「画像」をクリックすると、実例が見られます。ティータオル、コースター、マグカップ、エプロンなど色々あります。

スコットランドの方言グッズは手元に適切なものがないので、代わりに北アイルランド、ベルファストのTシャツをお目にかけます。全体と拡大版です。

北アイルランド、ベルファストのTシャツ 北アイルランド、ベルファストのTシャツ イラスト部分の拡大

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 井上 史雄(いのうえ・ふみお)

国立国語研究所客員教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 //www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 //dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/ 
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』『経済言語学論考 言語・方言・敬語の値打ち』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。

『日本語ウォッチング』『経済言語学論考  言語・方言・敬語の値打ち』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。