地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第106回 田中宣廣さん:「『方言』と『しゃれ』のコラボ」

筆者:
2010年7月3日

北国の北海道は涼しいはずですが,先月6月のおしまい,北海道の暑さはすさまじいものでした。特に26日には30年ぶりの記録更新となる足寄の37.1℃をはじめ,帯広,北見など15地点で最高気温35℃以上の「猛暑日」を記録しました。

これで思い出したのが,今から十数年前の夏のことです。1997年7月末,北日本は連日の猛暑に襲われました。そのときの『北海道新聞』の大見出しが「あついっ暑」でした。北海道方言の代表のような,確認の「―ッショ」と「暑」が掛けられているのは,北海道の人ならすぐに分かりますね。

今回は,このように,『方言』と『しゃれ』を併せて使用した方言の有効活用例を取り上げます。

岩手県の方言で,おじいさんを「ジッチャ」,おばあさんを「バッチャ」と呼ぶ地域があります。北部で優勢のようです。

これを,ペットボトルのお茶の名にした商品が,岩手県岩泉町の株式会社岩泉産業開発から発売されています。その名も「じっ茶ばっ茶」【写真1】です。内容は,岩手県産の豆や雑穀を焙煎した烏龍茶です。

【写真1】じっ茶ばっ茶
【写真1】じっ茶ばっ茶
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もう一つ,第13回で紹介されている,宮城県の「えずこホール」の関連です。これ自体は施設名の方言ネーミングで,第13回で紹介された例の他にも多数あり,最近では特に珍しくはないものです。

このホールの『方言』と『しゃれ』は,ホールの紙のパンフレットにある「いずこの人も えずこに来たれ。」のメッセージ【写真2】です。このホールを活動の場にしている多くの住民創造グループへの参加募集のメッセージで,第13回でもリンクしているインターネットの案内には認められないものです。

【写真2】いずこ…えずこ
【写真2】いずこ…えずこ

また,第43回の「自転車を『降りチャリ、押しチャリ』」も,『方言』と『しゃれ』による,方言看板・ポスター類ですね。

沖縄県那覇市に「ニーフェーデービル」(那覇の方言で「ありがとう」の意)という名のビル(建物)があるという情報も戴いています。これについては現在確認中です。

皆さん,言語の商業的利用には,こういう「楽しみ」もあります。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 田中 宣廣(たなか・のぶひろ)

岩手県立大学 宮古短期大学部 図書館長 教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,地域の自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞。『Marquis Who’s Who in the World』(マークイズ世界著名人名鑑)掲載。

『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。