秋田県で,ちょっと変わった方言みやげを見つけてきました。
それは,方言ライターです。
方言は「とうきょう」,共通語訳は「関東方面」とあります【写真1】。
秋田県で「とうきょう」と言えば,神奈川県,埼玉県,千葉県の,東京通勤圏程度の範囲を指す,というものです。
秋田の人たちは,この用法について,『方言』であること,つまり,地域性のあることを,あまり認識していないようです。私のゼミの学生で,秋田県出身者も,同様でした[注1]。
こういう『方言用法を共通語だと思い込む』ことを,「地域言語的用法の共通語視」と言います。これは私の術語です。この連載を一緒にしている井上史雄先生は,「気づかない方言」と呼んでいます[注2]。
だから,「とうきょう」(関東方面)を,方言みやげに採用したのは,この用法について,『方言』だと“気づいた”というわけです。方言みやげの掲載方言では『変わり種』です。
秋田の他の方言ライターには,「なんぼ これだぁ」(他家訪問時の挨拶「ごめんください」「こんにちは」の意)【写真2】があり,また,関連の方言みやげに,「(道の駅)十文字限定『まめでらが~』(元気ですか?)ステッカー」などがあります【写真3】[注3]。
皆さんも,こういう方言みやげにも“気づいた”ら,地域語の有効活用を,より興味深く見ることができると思います。
[注1] 実は,方言ライター「とうきょう」は,入手の前日に横手市(道の駅十文字)で見つけて,私は,迂闊にも『これは方言みやげではない』と誤解し,他の方言みやげを購入しました。その後“気づいて”,仙北市の岩手県との境に近いところで入手したものです。
[注2] 方言に対する類似の観方は,研究者ごとに定義と用語が異なります。ここの本文の2用語のほか,「方言らしくない方言」「えせ標準語」「気づかれにくい方言」「変容方言」「地方共通語」など,全部で14種を確認しています。私は『言語科学の百科事典』(丸善)p.396で整理しました。
[注3] 「まめでらが~」は,この道の駅のキャッチフレーズにもなっています【写真4】。店内には他の方言みやげや,方言メッセージがあります【写真5】。横手市のインターネットサイトにも道の駅十文字のページがあります。URLは,//www.city.yokote.lg.jp/kanko/page300164.htmlです。