「おじゃこさん」【写真1】は、京都の店先で見つけたものです。京都で「おじゃこ」といえば、温かいご飯の上にのせていただくちりめんじゃこを指すのが一般的です。京都では、料理の素材や料理名に「お~さん」をつけることが多いです。和風“れすとらん“で「あっ!お豆さんや!」とはじめて豆に出会ったような喜びを表して、豆ごはんをいただく風景が見られます。ほかにも、「おいもさん」「おこうこさん(お香香・漬物のたくわん)」など、京都の味の歴史や伝統を支えてきた食材に「お~さん」がつきやすいといえます。
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「お」をつける食材に、「おかぼ(かぼちゃ)」「おなす(なすび)」「おこぶ(昆布)」「おふ(麸)」などがあります。食材以外の例として、「おけそくさん」(お華足さん)があります。仏前に供えるごはん、お餅などをいうのですが、華足は、本来、仏前に置く脚付きの小盆を指します。
「~さん」を人に使う場合の例(本来、人に使うのですが)として、「よそさん」「一見(いちげん)さん」があります。京都で生活するとき、東日本にくらべて、けじめや筋を通すということが重要視されるようです。理屈では、どうにもならない場面で、「うちはうち、よそさんは、よそさん」と割り切るときの表現などに使われます。
「一見さん(いちげんさん・見ず知らずの紹介者のない初めての客)」は、もともとお茶屋ことばであったのが、「一見さん、おことわり」のように一般の店で使用されるようになった例です。お茶屋は、芸者を呼んで、客の代金を肩代わりします。紹介者の保証なしで初めての客を入れることは難しいことから、紹介者のない初めての客をこう呼ぶようになりました。
「おいでやす(いらっしゃい)。うまい貝汁とわっぱのめし、うまおまっせ(おいしいですよ)」【写真2】は、もう少し丁寧度があがると「おこしやす(いらっしゃい)。貝汁とわっぱのごはん、おいしおすえ。」とでもなるでしょうか。「うまおまっせ」は、京都でも男性が言いますが、むしろ大阪方言に近い感じです。「わっぱめし」の「わっぱ」は、杉や檜(ひのき)の薄板を曲げて作られる円筒形の木箱で、「わっぱめし」そのものは、福島や新潟以北で見かけることが多いです。関西と東北のコラボ作品といえます。
「ほんまにおいしいお弁当とおかず」【写真3】は、祇園で見つけた看板です。
次の例は、お酒の倉庫を売りにしている店の看板です【写真4】。「今ある家ん」(今あるやん・今あります)、「配達ならすぐいく家ん」(すぐいくやん・すぐ行きます)と、「や(ん)」に「家」という字をあてて、「いつでもあるではないか」と主張しています。「ほんまやんか」「あんた、きのう、そう、ゆうたやん」など「やん」は、文末につけて強調する意味で使います。
編集部から
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。