地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第146回 田中宣廣さん:『地域語の力』~東日本大震災復興の方言メッセージ

筆者:
2011年4月16日

3月11日午後2時46分の激しい揺れから始まった「東日本大震災」,地震本震とその約30分後の大津波の大きな被害は,皆さんも報道等で既によくご存知だと思います。尊い命をなくされた多くの方々に謹んで哀悼の意を表するとともに,被災された方々にお見舞い申し上げます。私の住む岩手県宮古市でも,甚大な被害を受けました。あれから1ヵ月経ちましたが,時が止まったようで,まだ昨日のことのようです。

そのなかで,地域語が大きな力となっています。被災民や復旧支援者が,各地の地域語で,復興の方言メッセージを掲げ,精神力を高め,体力を振り絞り,不自由な生活のなか奮闘しています。今回は,それらのほんの一部の例を紹介します。

大きく3種類になります。各々説明します。

①自衛隊の災害派遣部隊:全国各地からの大勢の支援隊が被災地を助けてくださっています。そのなかで自衛隊の災害派遣隊は,派遣先の地域語による方言メッセージをヘルメット側面に掲げています。「けっぱれ!岩手」【写真1】というわけです。宮城県では「がんばっぺ!みやぎ」【写真2】や「まけねど!女川・石巻」です。

(画像はクリックで拡大します)

【写真1 筆者撮影】
【写真1 筆者撮影】
【写真2 YOMIURI ONLINE(読売新聞:3月29日)より】
【写真2 YOMIURI ONLINE
(読売新聞:3月29日)より】

②マスコミや企業,行政など:「がんばっぺし!いわて!!」(IBC岩手放送)【写真3】,「がんばっぺし宮古!」(みやこ災害エフエム)【写真4】,「みんなでがんばっぺす」(ジョイス宮古千徳店)【写真5】,「がんばっぺ三陸」(マルホンカウボーイ宮古店)【同】,「がんばっぺ!いわき」(福島県:いわき市役所)【写真6】,その他です。

【写真3 IBC「じゃじゃじゃTV」より】
【写真3 IBC「じゃじゃじゃTV」より】
【写真4 みやこコミュニティ放送研究会提供】
【写真4 みやこコミュニティ放送研究会提供】
【写真5 筆者撮影(2枚とも)】
【写真5 筆者撮影(2枚とも)】
【写真6 いわき市役所「がんばっぺ!いわき」応援サイトより】
【写真6 いわき市役所「がんばっぺ!いわき」
応援サイトより】

③被災者など個人の手作り:「がんばっぺ!いばらき」(個人のブログ)【写真7】,「がんばっぺぇーす宮古」(岩手県宮古市:グリーンピア三陸みやこ避難所),「がんばっぺ高田!!」(岩手県:陸前高田市立第一中学校避難所)【写真8】,その他です。

左:【写真7 あなたの,私の街・いばらき
~I love IBARAKI♪~より】
右:【写真8 岩手県中小企業家同友会
のサイトより】

こういう厳しい時にも,地域の力となり,人々を元気づける底力が,方言にはあるのです。

なお,この大震災により,これまで紹介した方言の有効活用例や関連企業にも被害が及び,中には消失したものもあります。その状況は第151回で報告する予定です。

《謝辞》
 陸上自衛隊第11旅団,および,みやこコミュニティ放送研究会におかれては,当回の資料につきまして,特別の便宜を図ってくだされました。被災地での活動中にもかかわらず,ご協力を賜りましたことに対しまして,深甚なる謝意を表します。ありがとうございました。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 田中 宣廣(たなか・のぶひろ)

岩手県立大学 宮古短期大学部 図書館長 教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,地域の自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞。『Marquis Who’s Who in the World』(マークイズ世界著名人名鑑)掲載。

『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。