地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第158回 日高貢一郎さん:大分のおみやげ『AGURU』~味の現物カタログ~

2011年7月9日

日本全国には様々な特産品や珍しい産物が、たくさんあります。自分の知らないもの、初めてのものはもちろんですが、知っているものでもお気に入りの品物をもらうのは大変うれしいことです。
 「お世話になったあの方へ…」。お中元の季節が近づいてきました。

大分は、海あり山あり平野ありと、地形も変化に富み、そこで獲れる魚介類や海産物・農産物も豊富で、古くから大分県(豊前・豊後)は「豊(とよ)の国」と呼ばれてきました。

【写真1 デパートのみやげもの売り場で】
【写真1 デパートのみやげもの売り場で】
(クリックで並んでいる様子を拡大表示)
【写真2 JR大分駅の『AGURU』の紹介案内板】
【写真2 JR大分駅の『AGURU』の紹介案内板】

そんな豊かな特産物の数々を、多くの人に知ってほしい、利用してほしい、味わってほしいと、大分県の食の特産品を、小分けにして使いやすくパッケージしたのが、『大分のおみやげ AGURU』です。
 大分県庁が音頭をとり、従来からあった品々をグループ化し、まとめてパック。その普及と利用拡大に力を入れています。値段も1300円~3000円と、手頃な設定になっています。

大分県庁のホームページには「開発に当たっては、専門家(食環境プロデューサー)が県内各地を巡り、調味料や郷土料理など約200の商品の中からエコで大分らしい商品を厳選。『洋食セット』『大分のこだわり』『大分のよりすぐり』『大分のおやつ』と、大分らしさにこだわった4種類の詰め合わせ商品ができあがりました」と紹介されています。

核家族化が進み、また高齢化も進行して、たくさんの量をいただいても少人数の家族では食べきれず、ご近所や友人・知人にお裾分け…、などという体験も多くの人がしているのではないでしょうか。「小分けされている」というのも、そんな現状を考慮してのこと。
 いわば、少量ずつの“味見用お試し見本セット”“現物による味のカタログ”とでもいったらいいでしょうか…。「お気に召したらぜひ本格的にご注文を…」と、注文ガイドのしおりも入っています。

その名「AGURU」をローマ字表記で見ると、はて、何語で、どういう意味だろうかと思いたくなりますが、実はこれ、〔(あなたに)上げる、差し上げる〕という意味です。
 大分県をはじめ、九州各地には、古い「動詞の二段活用」が今もまだ現役で活躍中で、日常の会話でもよく使われています。

「AGERU」(上げる)でもよさそうですが、それでは当たり前すぎる。そこをちょっと古風に「AGURU」(上ぐる)と命名し、伝統ある品々だという雰囲気を醸し出す効果ももたせています。また、方言をローマ字で表記するのは、これまでにこの連載で取り上げた事例でおなじみのように、近年、しばしば見られる手法です。

贈り主からの、「この中には、長い伝統のもとに作られ、愛されてきた品々が入っています。どうぞ味わって、楽しんでください」という思いも添えて、大分から全国各地に届けられます。(なお、地元・大分の他、東京でも入手可能だということです)

 

《参考》//www.mejiron.tv/channel/4/video_detail.php?vc=130128937246では、大分県庁からのテレビ広報番組で取り上げられた『AGURU』の紹介を見ることができます。
 動詞「上げる・上ぐる」の地元でのアクセントは「低高高」の平板型ですが、この番組では『AGURU』は、名詞ととらえてでしょう、「高低低」の頭高型で発音しています。
 また、大分県庁のホームページ//www.pref.oita.jp/site/sinzidai/toku276.htmlや//www.pref.oita.jp/soshiki/14300/ooitamiyage.htmlでも紹介されています。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 日高 貢一郎(ひだか・こういちろう)

大分大学名誉教授(日本語学・方言学) 宮崎県出身。これまであまり他の研究者が取り上げなかったような分野やテーマを開拓したいと,“すき間産業のフロンティア”をめざす。「マスコミにおける方言の実態」(1986),「宮崎県における方言グッズ」(1991),「「~されてください」考」(1996),「方言によるネーミング」(2005),「福祉社会と方言の役割」(2007),『魅せる方言 地域語の底力』(共著,三省堂 2013)など。

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。