羽田からのモノレールで、方言広告に気が付きました。
「いいじゃん天草 いいじゃんくまもと いいじゃん阿蘇」
と書いてあります。以下のような事情で、広告の原図が手に入りました。今は見られませんから、特別にお目にかけます【写真1】。
さて、「じゃん」は山梨(または愛知県三河)起源とされ、横浜から東京に伝わり、今全国に広がっています。広島では「ええじゃん広島」をキャッチフレーズにしていました【第27回】。「じゃん」はついに熊本にまで達したのかと思いました。
思いついて熊本県観光課をネットで探して、問い合わせました。熊本市シティプロモーション課で広告を出したことを教えてくれました。そこに以下のようなメールを出しました。
《「じゃん」を使ったのは、熊本で使っているからでしょうか、それとも羽田に近い横浜の方言として有名だと判断したのでしょうか。》
すぐに返事が来ました。
《主に首都圏で使われる表現ということで使用致しました。あえて当地域の方言を使用せず、広告を掲出する地域の方の共感を誘う手法を用いておりますため、首都圏の皆さまに向けて「いいじゃん」という表現を使用した次第です。》
広告などで別の地域の方言を借用する例は、この連載第153回、第175回でも扱われています。また、『日本語学』(2009年1月号)のエッセイ「ことばの散歩道」128回でも九州の「うまかんべ」と千葉の「うまか」を報告しました。
「方言リアリズム」が崩れたわけです。そういえば広島県宮島で「これは うまいじゃ しゃもじ」というお菓子を見つけました【写真2】。買ったあと店の人に聞いたら、「うまいじゃ」とは言わないそうです。でも広島めかした言い方だと考えればいいし、食べてみたらおいしかったから、許しましょう。
編集部から
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。