高知で調査した方言の拡張活用例の報告の3回目です。
高知方言の「こじゃんと」を取り上げます。
「こじゃんと」には,二つの意味があります。一つは,数もしくは量の多いこと(共通語なら「たくさん」)です。もう一つは,程度の甚だしいこと(共通語なら「とても」)です。「こじゃんと」は,二つの意味の両方ともで,拡張活用されています。
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はじめに,数また量の多いことの拡張活用例です。まず,“「龍馬」も?「雅治」も『こじゃんと』飲みゆう”【写真1】は,一昨年のNHK大河ドラマに重ねたメッセージですね。(用例の引用に『こじゃんと』は,二重カギ括弧『 』で挟みます。以降同じです)“『こじゃんと』飲んでよ”【写真2】も,同じような用法です。また,“土佐の海には旨い魚が『こじゃんと』おるき ”【写真3】と,食品そのものでなく,食材でのアピールも,とても興味深い用例です。
次に,程度の甚だしいことの拡張活用例です。まず,土佐名物「(カツオなど魚の)たたき」の広告です。“いろんな魚をタタキで食べたら『こじゃんと』おいしい!”【写真4】は,女の子,つまり,子どもに発言させた例です。方言は古いもの,あるいは,年寄りだけのもの,という先入観を逆手にとった(もしくは,誤りとしての先入観を正した)拡張活用法だと思います。これは,幟になっていますが,卓上版もあります【写真4をクリックして表示】。また,共済の広告“『こじゃんと』! 安心!”【写真5】は,高知出身者ではない私から見ましても,高知の人が本当に全面的に頼って安心する感じがよく伝わってきます。おしまいの例は,一昨年(2010年)1月に開催されました「土佐・龍馬 であい博」のポスターです。“高知は『こじゃんと』うまい!”とありますが,「こじゃんと」のところだけ白抜きにして強調しています【写真6】。ポスターの大部分を,いろいろな高知方言で表現し,結びのまさしく《締め》に「こじゃんと」を使っています。この使い方からも,高知の人にとりまして「こじゃんと」は,代表的な高知方言(土佐弁)であることが理解できます。
なお,私は,高知出身の先輩より,昨年末に土佐文旦(とさぶんたん:柑橘果物の一種)を「こじゃんと」贈っていただきました。「こじゃんと」おいしいものでした。