「えぃくそっ 負げねーど!!(負けないぞ)」【写真1】は、仙台市内で見つけたポスターの一部です。東日本大震災で被災した企業がやっとの思いで操業再開にこぎつけたときの叫びです。これは、多くの日本人が今共感できる言葉といえましょう。
【写真2】は、「うめばりいっそだがら あがいん(とにかくおいしいから、いちど食べてみろぉ~)」とあります。
これは、被災者だからといって立ち止まっているわけにはいかないと、女性2人が昨年6月に立ち上げた宮城県の海苔の会社のメッセージです。宮城県石巻市では感謝の味噌「希望」、「感謝」と命名された味噌が販売されるなど応援のことばに答える言語表示が見られるようになりました。
(写真2・3はクリックで全体を表示)
「あがいん」は、「あがる(食べる)」+「~いん」ですが、「~いん」は「~らいん」と同様「ございん(いらっしゃい)」「写真ば見らいん(写真を見なさい)」のようにやさしい命令を表現する形式です。「新聞持ってきてけらいん(持ってきてください)」などと言います。宮城県南部に行くと「ああそうがいん(ああそうですか)」のような用法もあります。
仙台市商店街の路面【写真3】に「よぐござったごだ(よくいらっしゃいました)」「まだおんなしてくないん(またおいでください)」と書かれています。この路面標示は以前からあるものですが、「おんなしてくないん」の「~いん」が「あがいん」の「~いん」と同じ用法なので紹介しておきます。「来てください」だと「来てけさいん」となります。やさしく命令する表現のなかに相手を思いやる心が語尾に込められています。
『NHK 21世紀に残したい宮城のことば10』に「ございん(いらっしゃい)」「~けさいん(~してください)」が選ばれています。
編集部から
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。