地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第275回 大橋敦夫さん:脚下照顧!―マンホールの蓋に尾張弁が!!(愛知県犬山市)―

筆者:
2013年10月12日

道を歩いている時、気にとめる方は少ないと思われますが、マンホールの蓋には、さまざまなデザインが工夫されています。地域の見どころであったり、伝統行事であったり……。

なかでも、本サイトにふさわしい「この一枚」がこれです。

(クリックで拡大)

設置者である犬山市のご担当(水道部 下水道課)の方に、お話を伺ってみました。

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●尾張弁をあしらったねらいは?

平成10年に施行された「環境4条例」のPRの一環として設置されたものです。硬い表現を避け、インパクトを持たせるために、このようなデザインとなりました。

●反響・表現効果は、いかがですか?

データ等はありませんが、珍しいタイプのマンホールですので、一定のPR効果はあったのではないかと思います。

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確かに、マンホールの蓋に方言があしらわれているのは、珍しいと思われます。皆さんの地元にもあれば、是非とも情報をお寄せください。

ところで、キャッチコピーに使われている「ちょ~」ですが、方言辞典等では、次のような解説がなされています。

①山田秋衛氏『随筆 名古屋言葉辞典』(名古屋泰文堂 1961.8)

チョウ チョウは頂戴の省略語であり、いつの頃にかダイを切り捨てて上だけが独立したもの。共通語では「私にもチョウダイ」「また是非来てチョウダイ」等を「わたしにもチョウ」「また来てチョウよ」と使われる。名古屋人は特にチョウを多く口にするが、大体宗春時代にできた言葉で下層階級に拡がり、今も名古屋ことばの代表語。

②鈴木勝忠氏『東海の言葉辞典』(名古屋泰文堂 1969.10)

ちょう 頂ちやう ちょうだいの略、依頼の終助詞

③清水義範氏『やっとかめ!大名古屋語辞典』(学習研究社 2003.9)

ちょう 「…してほしい」という願望または要求の言葉で、これも使用頻度が高い単語である。「ちょー」「ちょうせ」「ちょうよ」も同義語。丁寧語は、「ちょうでゃあ」。(例)「この本、買ってちょうでゃあ」(この本、買ってください)

と、いうことで、かつての尾張藩域を中心とする「尾張方言」の代表格と説明されていますが、現在、犬山市民の日常語からは、消えつつあるようです。

とは言え、国宝犬山城への観光ルート・本町通りにある「旧磯部家住宅」(登録有形文化財)の茶室の愛称は、「よってちょう庵」。

地元らしさを訴えるには、愛着のある大切な言葉であると思われます。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 大橋 敦夫(おおはし・あつお)

上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。

大橋敦夫先生監修の本

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。