weich kochenというと、まず思い出すのはein weich gekochtes Ei(半熟卵)だが、こちらの用法の方が特別で、本来は「柔らかくなるまでしっかり煮る」ということのようである。ドイツ語に限ることではないようだが、kochen(煮る)という概念で料理一般を代表させている食文化では、柔らかくなるまで煮る、とろとろになるまで煮込む、というのが料理の原形であるらしい。典型的なのは、フランスの有名な野菜の煮込み料理ラタトゥイユのようなものであろう。ヨーロッパの家庭料理を探訪する雑誌記事やテレビ番組を見ると、旬の名産物を豪快に大鍋にぶち込んで、2時間煮ます、半日煮込みます、というパターンばかりで苦笑させられることがある。
逆に言うと、柔らかくなった状態こそ、料理の完成した状態なのであり、歯ごたえが残っているとか、素材の天然の持ち味が残っているなどという状態は、未完成だとみなされるようだ。どうも日本人が好む食感の一つ、野菜のしゃきしゃきした歯触りを残しながら、さっと色よく湯がくとか、新鮮な海産物やササミやカルビなどの素材の風味を活かしながら、良い焼き色が付く程度に手早く炙る、というような調理法は存在しないらしい。
気になるのは温野菜で、この得体の知れない茶色の煮物は何だろうと目を近づけると、クタクタになったインゲンだったりブロッコリーだったりする。同じ考え方の延長で作られるホウレンソウのクリームなど、目玉焼きにかけるのが定番の食べ方らしいが、私は苦手である。野菜をゆでていると、ドイツ人がひょいとのぞいて、もうweichになったかい?と声をかけてくるので面食らったことがある。タケノコでもない限り、weichになったかどうかを、私たち日本人は野菜の料理の目安にはしないからで、むしろ大抵の場合は、weichにしてしまったら失敗ですらある。ドイツ人としては気安く、もう出来たかい?と聞いてくれただけだったのだが。
もっと野菜を食べようとする昨今のドイツの食生活改善によって、だいぶ事情も変わったようだが、まだまだドイツ人は野菜の美味しい食べ方を知らないように思える。