『英語談話表現辞典』覚え書き

(12) 間投詞 Jesus、Christ

筆者:
2010年1月7日

今回も前回に引き続きキリスト教にかかわる間投詞としてのJesusとChristを考えてみます。

Jesus Christはご存知のようにイエス・キリストを指す神聖な固有名詞で、本来は軽々しく口に出すことがはばかれる語でしたが、フルネームとしてもあるいは名前と姓別々のいずれででもswearwords(ののしり語)としてよく用いられます。

間投詞としてのOEDの初出例は、Jesusは1377年、Christは遅れて1748年となっています。これは名前と姓という違いからJesusのほうが頻度が高いからではないかと思われます。いずれも目の前の出来事、事態に対する否定的な態度や、いらだち・狼狽した気持ちを表すのが典型です。本辞典では立項されていませんが、基本的な用法は次のように記述できるでしょう。なお、用例は三省堂コーパスを改変したものです。

Jesus
1 〈不測の事態が起こって〉なんてことだ、どうしよう、やばい:Oh Jesus, I’ve got a terrible headache. I’ve got the final exam. なんてこった、ひどい頭痛だ。最終試験があるっていうのに/《不審物を調べて》Jesus, these are explosives! やばい、爆発物だ。
2 〈嘆いて〉なんとまあ:Jesus, what a day I’ve had. まあ、なんという(ひどい)一日だったのだろう。
3 〈どうしようもない状況に置かれて〉どうしたことだ、どうしよう、まさか:《転んで》Jesus, I can’t walk! どうしたんだ、歩けない。
4 〈自分がした失敗に対して〉しまった、なんてことだ:《就職した会社が倒産して》 Jesus, if I had known it was this bad, I wouldn’t have taken the job.なんてことだ、こんなに状態が悪いとわかっていたら、入社しなかったのに。
5 〈疑問文の前に置いて〉いったい全体:Jesus, why did you run away? いったいなぜ逃げたんだ?(◆ときに非難めいた言い方になる)

Christも同じような状況で用いられますが、次のような記述にしてみました。

Christ
1 〈非難して〉なんてことだ、まったく、もう:Christ, you’re self-indulgent! There’s nothing but anger and cynicism left inside you. まったく君はわがままなんだから。怒っているかいやみを言っているかしかないんだもの。
2 〈いやな状況におかれて〉とんでもない、なんてこった、うわっ:”Did you break the glass?” “No. Christ, Mum. You gotta believe me.” 「コップ、割った?」「いや、とんでもないよ、お母さん。信じてよ」。
3 〈強調して〉これはこれは、それなのに、当然:Christ, I’m starving.もう、おなかペコペコだ/ ”Did you see Julius Caesar?” “Christ, I will never forget that!”「ジュリアス・シーザー、みた?」「もちろん、忘れられないわ」。
4 〈疑問文の前に置いて〉いったい全体:She’s really a millionaire. Christ, how much does she want?彼女は大金持ちだっていうのに、さらにどれだけお金がほしいのだろう。

Jesus ChristはJesusやChrist単独よりも強い口調となることが多いでしょう。

1 〈驚いて〉うわっ、何てことだ、どうしよう:《思いがけない光景に出くわして》Oh, Jesus Christ, look at that!うわっ、あれは何だ?/《高い所から飛び降りるようけしかけて》Hey, come on! . . . Jesus Christ, I didn’t think he’d really do it. さあ、飛び降りろよ!…何てこった、本当に飛び降りるなんて。
2 〈疑問文の前に置いて〉いったい全体:《貸したお金を請求して》”You’re over ten days past due.” “Jesus Christ, what’re you, a collector for a casino?”「約束の日から10日過ぎているぞ」「いったい君は何てやつなんだ。カジノの取立て屋か」
3 〈懇願して〉お願いだ、どうか:《仕事上の不手際があって》”What are you gonna do about this?” “Jesus Christ, give me one more chance.”「この不始末をどうする気だ」「お願いだ、もう一度チャンスをください」
4 〈現状と対比させて〉ところが、それなのに:It’s a sensitive issue with someone your age. But Jesus Christ! Not one boyfriend in the whole time that I have known you.あなたの年頃では微妙な問題だけど、それでも私と友だちになってからその間ボーイフレンドが一人もいないとはね(◆butを伴うことが多い)。

筆者プロフィール

内田 聖二 ( うちだ・せいじ)

奈良女子大学教授

専門は英語学、言語学(語用論)

主な業績:

『英語基本動詞辞典』(1980年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『英語基本形容詞・副詞辞典』(1989年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『英語基礎語彙の文法』(1993年)英宝社(衣笠忠司、赤野一郎と共編著)
『関連性理論-伝達と認知-』(初版1993年、第2版1999年)研究社(共訳)
『小学館ランダムハウス英和大辞典』(第2版1994年)小学館(小西友七・安井稔・國廣哲弥・堀内克明編、分担執筆) 
Relevance Theory: Applications and Implications, 1998, John Benjamins.(Robyn Carstonと共編著)
『英語基本名詞辞典』(2001年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『ユースプログレッシブ英和辞典』(2004年)小学館(八木克正編集主幹、編集委員)
『新英語学概論』(2006年)英宝社(八木克正編、共著)
『思考と発話』(2007年)研究社(共訳)
『子どもとことばの出会い』(2008年)研究社(監訳)
『語用論の射程』(2011年)研究社

英語談話表現辞典

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