歴史で謎解き!フランス語文法

第11回 なぜフランス語の数詞は、こんなにも複雑なの? ①

2020年2月21日

先生:聞いたよ、フランス語の数字が1から100まで言えるようになったんだって?

 

学生:そうなんです。苦労しましたが、何とか覚えましたよ。

 

先生:じゃあ、試しに1から20まで数えてみてくれるかな?

 

学生:わかりました。un, deux, trois, quatre, cinq ...... quinze, seize, dix-sept, dix-huit, dix-neuf, vingt! どうですか、全部言えましたよ!

 

先生:うんうん、数えられるようになっているみたいだね。じゃあ、質問を1つ。seize から dix-sept に移り変わる時、いきなり数の形が変化するのはどうしてなんだろうか?

 

学生:えっと……どうしてなのでしょう、何も考えずに数えてました。

 

先生:初めてフランス語の数詞を習う時には、この変化に驚いたりすると思うんだけど、慣れてしまうとあまり気にならなくなってしまうよね。16までは1つの単語だったのに対し、17、18、19に関しては2つの単語が組み合わされた形になっている。どうしてこのような変化が生じるのかというと、実は古典ラテン語から現代フランス語に変化していく流れの中で、同じ数詞を示す複数の表現が存在したからなんだよ。

◆数字の歴史的変遷(基数詞11~22)[注1]

数字 古典ラテン語 俗ラテン語 古フランス語 現代フランス語
11 undecim *undecem onze onze
12 duodecim *dodecem doze douze
13 tredecim *tredecem treze treize
14 quattuordecim *quattordecem quatorze quatorze
15 quindecim *quindecem quinze quinze
16 sedecim *sedecem seze seize
17 septemdecim *decem (et) septem dis et set / dis set dix-sept
18 octodecim / duodeviginti *decem (et) octo dis et uit / dis uit dix-huit
19 novemdecim / undeviginti *decem (et) novem dis et nuef / dis neuf dix-neuf
20 viginti *viginti vint vingt
21 unus et viginti / viginti unus *viginti (et) unus vint et un / vint un vingt et un
22 duo et viginti / viginti duo *viginti (et) duo vint et deus / vint deus vingt-deux

学生:へぇー。古典ラテン語の段階では、17、18、19は1つの単語だったのですね。

 

先生:そうそう。例えば「17」は古典ラテン語で septemdecim、つまり「7(septem)+10(decim)」という形態になっているんだ。俗ラテン語になるにつれて「10+7」*decem (et) septem という形態が広まり、古フランス語の dis et set もしくは dis set という2種類の形ができた。そして、最終的に dix-sept という形が、現代フランス語で定着したんだよ。

 

学生:なるほど、1の位と10の位が逆転したのですね。ちなみに、18、19も同じですか? 古典ラテン語の部分を見ると、2種類の形態があるようですが。

 

先生:18、19に関していうと、古典ラテン語の段階では、さらに複雑な形態が存在したんだ。足し算形式の「8+10」octodecim、「9+10」novemdecim 以外に、引き算形式の「20-2」duodeviginti、「20-1」undeviginti という形態もあった。これも俗ラテン語になる際に「10+8」*decem (et) octo、「10+9」*decem (et) novem となっていき、現在の形に落ち着いているよ。

 

学生:足し算形式だけではなく、引き算形式もあったなんて! さらに、「1の位と10の位」だったり、「10の位と1の位」だったり、組み合わせがバラバラで、さらに複雑に感じます。

 

先生:位の前後問題については、11から16の形態にも関連するね。さっき見たとおり、17、18、19は「10の位と1の位」なんだけど、実は11から16は「1の位と10の位」になっているんだ。古典ラテン語と比較すれば一目瞭然なんだけど、現代フランス語の数字 onze, douze, treize, quatorze, quinze, seize の語尾にある « -ze » は、古典ラテン語の decim「10」が変化したものなんだ[注2]。フランス語の « -ze » に類似する現象として、英語では « -teen »、ドイツ語では « -zehn »、イタリア語では « -dici » があるけど、これらも全て「10」を表しているよ。

 

学生:おぉー! 本当ですね! 英語の「10」ten、ドイツ語の「10」zehn、イタリア語の「10」dieci の名残が見て取れます!

 

先生:あと、古典ラテン語には、位の組み合わせ方が2通りある数詞も存在したんだ。「21」と「22」を見てごらん。「1の位と10の位」の組み合わせで、「1+20」unus (et) viginti、「2+20」duo (et) viginti と表すパターンもあれば、「10の位と1の位」の組み合わせで、「20+1」viginti (et) unus、「20+2」viginti (et) duo と表すパターンもあるのがわかるよね。

 

学生:あっ、「1の位と10の位」の組み合わせに « et » が入ってる! ということは、現代フランス語の vingt et un に含まれる接続詞 « et » は、この時の名残といえるのですね!

 

先生:そういうこと。この « et » は、古典ラテン語の時代から現代に至るまで、連綿と受け継がれてきたものなんだよ。

 

学生:でも、現代フランス語の数詞で « et » が入るのは、「21」vingt et un、「31」trente et un...... と1の位が「1」の場合だけですよね。「22」vingt-deux みたいに、1の位が「2」以降の数字には « et » が入ってきませんけど、これには何か理由があるのでしょうか?

 

先生:いい質問だね。1の位が「1」の時だけ接続詞 « et » が挿入される現象があるわけだけど、なぜ入るのかという問いに対しては、よくわかっていないんだ。17世紀の文法家アントワーヌ・ウダンは「あらゆる数詞に対して、« et » を書くこと」を勧めていたりする[注3]

 

学生:17世紀当時は「21」だけでなく、「22」にも、「23」にも、« et » が挿入されていたということでしょうか?

 

先生:当時は「21」ですら、vingt et un/vingt-un というように2種類の形態があったから、書式は混在していたみたいだね。その後、« et » を入れる、入れないという議論は19世紀まで続いていった[注4]。こうして2種類の形態が長らく共存した結果、現在では21、31、41、51、61、71には接続詞 « et » をつけ、81(quatre-vingt-un)と 91(quatre-vingt-onze)には « et » をつけないという、奇妙な状況になってしまったんだよ。

 

学生:どうして今のような状況になったのか気になりますね。

 

先生:確かにね。数字を覚える時に、勢いで暗記してしまうのもいいけど、言葉の構造の意味を理解した上で暗記すれば、さらに定着しやすくなるだろうし。

 

学生:気になるといえば、フランス語の数字にはとても複雑な形態があります。70から90に関してですが、この部分は「60+10」とか、「4×20」とか、「4×20+10」とか、もはや理屈で考えるのが厳しいくらい複雑です。どうしてこうなったのか、教えていただけませんか?

 

先生:その部分は本当に謎だよね。毎年授業で取り上げると、教室内に落胆とも、驚嘆とも取れる声が響き渡っているよ。今日はこれから授業があるから、また今度説明することにしよう。それまでに自分でも調べてきてくれるかな。

 

学生:わかりました、調べてきます! 今日もありがとうございました!

[注]

  1. ZINK, Gaston, Morphologie du français médiéval, Paris, PUF, 1989, pp. 55-65. この表は、Zink による Les termes de numération の記述を参考に作成した。
  2. Gvozdanovic, JADRANKA, Indo-European Numerals, Berlin, De Gruyter, 2011, pp. 456-457.
  3. OUDIN, Antoine, Grammaire françoise rapportée au langage du temps, Paris, Chez Antoine de Sommaville, 1632, p. 72.
  4. BESCHERELLE, Louis-Nicolas, Dictionnaire national ou dictionnaire universel de la langue française, Paris, Simon et Garnier Frères, 1850, t. 2, p. 1566. 1850年には、当時の文法家ルイ=ニコラ・ベシュレルも「vingt et un / vingt-unのいずれの言い方も可能」としている。

筆者プロフィール

フランス語教育 歴史文法派

有田豊、ヴェスィエール・ジョルジュ、片山幹生、高名康文(五十音順)の4名。中世関連の研究者である4人が、「歴史を知ればフランス語はもっと面白い」という共通の思いのもとに2017年に結成。語彙習得や文法理解を促すために、フランス語史や語源の知識を語学の授業に取り入れる方法について研究を進めている。

  • 有田豊(ありた・ゆたか)

大阪市立大学文学部、大阪市立大学大学院文学研究科(後期博士課程修了)を経て現在、立命館大学准教授。専門:ヴァルド派についての史的・文献学的研究

  • ヴェスィエール ジョルジュ

パリ第4大学を経て現在、獨協大学講師。NHKラジオ講座『まいにちフランス語』出演(2018年4月~9月)。編著書に『仏検準1級・2級対応 クラウン フランス語単語 上級』(三省堂)がある。専門:フランス中世文学(抒情詩)

  • 片山幹生(かたやま・みきお)

早稲田大学第一文学部、早稲田大学大学院文学研究科(博士後期課程修了)、パリ第10大学(DEA取得)を経て現在、早稲田大学非常勤講師。専門:フランス中世文学、演劇研究

  • 高名康文(たかな・やすふみ)

東京大学文学部、東京大学人文社会系大学院(博士課程中退)、ポワチエ大学(DEA取得)を経て現在、成城大学文芸学部教授。専門:『狐物語』を中心としたフランス中世文学、文献学

編集部から

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「歴史で謎解き! フランス語文法」では、はじめて勉強する人たちが感じる「なぜこうなった!?」という疑問に、フランス語がこれまでたどってきた歴史から答えます。「なぜ?」がわかると、フランス語の勉強がもっと楽しくなる!

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