先生:聞いたよ、フランス語の数字が1から100まで言えるようになったんだって?
学生:そうなんです。苦労しましたが、何とか覚えましたよ。
先生:じゃあ、試しに1から20まで数えてみてくれるかな?
学生:わかりました。un, deux, trois, quatre, cinq ...... quinze, seize, dix-sept, dix-huit, dix-neuf, vingt! どうですか、全部言えましたよ!
先生:うんうん、数えられるようになっているみたいだね。じゃあ、質問を1つ。seize から dix-sept に移り変わる時、いきなり数の形が変化するのはどうしてなんだろうか?
学生:えっと……どうしてなのでしょう、何も考えずに数えてました。
先生:初めてフランス語の数詞を習う時には、この変化に驚いたりすると思うんだけど、慣れてしまうとあまり気にならなくなってしまうよね。16までは1つの単語だったのに対し、17、18、19に関しては2つの単語が組み合わされた形になっている。どうしてこのような変化が生じるのかというと、実は古典ラテン語から現代フランス語に変化していく流れの中で、同じ数詞を示す複数の表現が存在したからなんだよ。
◆数字の歴史的変遷(基数詞11~22)[注1]
数字 | 古典ラテン語 | 俗ラテン語 | 古フランス語 | 現代フランス語 | |
---|---|---|---|---|---|
11 | undecim | *undecem | onze | onze | |
12 | duodecim | *dodecem | doze | douze | |
13 | tredecim | *tredecem | treze | treize | |
14 | quattuordecim | *quattordecem | quatorze | quatorze | |
15 | quindecim | *quindecem | quinze | quinze | |
16 | sedecim | *sedecem | seze | seize | |
17 | septemdecim | *decem (et) septem | dis et set / dis set | dix-sept | |
18 | octodecim / duodeviginti | *decem (et) octo | dis et uit / dis uit | dix-huit | |
19 | novemdecim / undeviginti | *decem (et) novem | dis et nuef / dis neuf | dix-neuf | |
20 | viginti | *viginti | vint | vingt | |
21 | unus et viginti / viginti unus | *viginti (et) unus | vint et un / vint un | vingt et un | |
22 | duo et viginti / viginti duo | *viginti (et) duo | vint et deus / vint deus | vingt-deux |
学生:へぇー。古典ラテン語の段階では、17、18、19は1つの単語だったのですね。
先生:そうそう。例えば「17」は古典ラテン語で septemdecim、つまり「7(septem)+10(decim)」という形態になっているんだ。俗ラテン語になるにつれて「10+7」*decem (et) septem という形態が広まり、古フランス語の dis et set もしくは dis set という2種類の形ができた。そして、最終的に dix-sept という形が、現代フランス語で定着したんだよ。
学生:なるほど、1の位と10の位が逆転したのですね。ちなみに、18、19も同じですか? 古典ラテン語の部分を見ると、2種類の形態があるようですが。
先生:18、19に関していうと、古典ラテン語の段階では、さらに複雑な形態が存在したんだ。足し算形式の「8+10」octodecim、「9+10」novemdecim 以外に、引き算形式の「20-2」duodeviginti、「20-1」undeviginti という形態もあった。これも俗ラテン語になる際に「10+8」*decem (et) octo、「10+9」*decem (et) novem となっていき、現在の形に落ち着いているよ。
学生:足し算形式だけではなく、引き算形式もあったなんて! さらに、「1の位と10の位」だったり、「10の位と1の位」だったり、組み合わせがバラバラで、さらに複雑に感じます。
先生:位の前後問題については、11から16の形態にも関連するね。さっき見たとおり、17、18、19は「10の位と1の位」なんだけど、実は11から16は「1の位と10の位」になっているんだ。古典ラテン語と比較すれば一目瞭然なんだけど、現代フランス語の数字 onze, douze, treize, quatorze, quinze, seize の語尾にある « -ze » は、古典ラテン語の decim「10」が変化したものなんだ[注2]。フランス語の « -ze » に類似する現象として、英語では « -teen »、ドイツ語では « -zehn »、イタリア語では « -dici » があるけど、これらも全て「10」を表しているよ。
学生:おぉー! 本当ですね! 英語の「10」ten、ドイツ語の「10」zehn、イタリア語の「10」dieci の名残が見て取れます!
先生:あと、古典ラテン語には、位の組み合わせ方が2通りある数詞も存在したんだ。「21」と「22」を見てごらん。「1の位と10の位」の組み合わせで、「1+20」unus (et) viginti、「2+20」duo (et) viginti と表すパターンもあれば、「10の位と1の位」の組み合わせで、「20+1」viginti (et) unus、「20+2」viginti (et) duo と表すパターンもあるのがわかるよね。
学生:あっ、「1の位と10の位」の組み合わせに « et » が入ってる! ということは、現代フランス語の vingt et un に含まれる接続詞 « et » は、この時の名残といえるのですね!
先生:そういうこと。この « et » は、古典ラテン語の時代から現代に至るまで、連綿と受け継がれてきたものなんだよ。
学生:でも、現代フランス語の数詞で « et » が入るのは、「21」vingt et un、「31」trente et un...... と1の位が「1」の場合だけですよね。「22」vingt-deux みたいに、1の位が「2」以降の数字には « et » が入ってきませんけど、これには何か理由があるのでしょうか?
先生:いい質問だね。1の位が「1」の時だけ接続詞 « et » が挿入される現象があるわけだけど、なぜ入るのかという問いに対しては、よくわかっていないんだ。17世紀の文法家アントワーヌ・ウダンは「あらゆる数詞に対して、« et » を書くこと」を勧めていたりする[注3]。
学生:17世紀当時は「21」だけでなく、「22」にも、「23」にも、« et » が挿入されていたということでしょうか?
先生:当時は「21」ですら、vingt et un/vingt-un というように2種類の形態があったから、書式は混在していたみたいだね。その後、« et » を入れる、入れないという議論は19世紀まで続いていった[注4]。こうして2種類の形態が長らく共存した結果、現在では21、31、41、51、61、71には接続詞 « et » をつけ、81(quatre-vingt-un)と 91(quatre-vingt-onze)には « et » をつけないという、奇妙な状況になってしまったんだよ。
学生:どうして今のような状況になったのか気になりますね。
先生:確かにね。数字を覚える時に、勢いで暗記してしまうのもいいけど、言葉の構造の意味を理解した上で暗記すれば、さらに定着しやすくなるだろうし。
学生:気になるといえば、フランス語の数字にはとても複雑な形態があります。70から90に関してですが、この部分は「60+10」とか、「4×20」とか、「4×20+10」とか、もはや理屈で考えるのが厳しいくらい複雑です。どうしてこうなったのか、教えていただけませんか?
先生:その部分は本当に謎だよね。毎年授業で取り上げると、教室内に落胆とも、驚嘆とも取れる声が響き渡っているよ。今日はこれから授業があるから、また今度説明することにしよう。それまでに自分でも調べてきてくれるかな。
学生:わかりました、調べてきます! 今日もありがとうございました!
[注]