前回、列記してみた「まじめ」の「誤字」(誤表記)は、よく考えてみると当て字へのさらなる当て字といえる部分が含まれていた。誤字は、きちんとした字を書こうと意図したのにそうはならなかったという側面に着目して使われることが多い用語である。当て字は、より意図的な行為や結果を指すことがあるが、誤字と案外重なるものである。前回の誤字には、
字義・語義の表記への干渉、
別字の字体との混淆、
別の熟語との混淆、
「目」(め)と「面」(メン)との音や意味の範疇の類似による混淆、
「ジ」に「面」を当てることの異例さの回避、
字順への不審による転倒
などが起こっていて、ときに別の字や表記が侵入して起こっていたらしいことが、筆記結果や筆記段階の観察によってうかがえる。また、「面白い」とセットで覚えさせられたという人もいて、混乱の状況の一端が垣間見える。
「真自目」というような字体における同化現象、つまり後の字の「目」が前の字に干渉して似た字体をもつ「自」を導き出すという、音韻面に顕著な現象になぞらえうる現象もかかわるような表記がしばしば見られた。それは、「真面目」には正式な教育機会が与えられておらず、色々な面でイレギュラーさをもつ表記を、自然に何となく覚えるために、どうしても避けがたいことであった。上記には、WEB上でも引用文や自身の文の中で、入力されているものがある。
「真地目」は、漫画「こち亀」のキャラクターの名にも、あえてであろうが見られる。「真地面」は、「真地面な(に)」と使用されているものが目に付き、もしかしたら「まじめんな」「まじめんに」と字面の通りに発音している人もいるのかもしれない。辞書で見たイメージや自分のイメージからこう書いたという者もいる。「真面目」を「真」剣な「面」と「目」をしているためと解釈した、という者もいた。字義と字面から、「真剣」とかかわりを見出すことは、あながち俗解ともいえないものであった。
学生たちは、「真面目」が常用漢字表に認められていなかった表記であるにもかかわらず、以下のような記憶を語ってくれる。
小学生の時に習った
小学校・中学校の漢字ドリル・漢字練習帳で習った
高校ではすでに漢字テストに出ていた
塾で習った
世の趨勢を取り入れた教員や参考書などもあるのであろう。また、「真面目」を幼いときから知っていて、ケータイでも見て覚えていたという学生もいた。「当用漢字表」に代わって内閣告示された「常用漢字表」(1981)は、漢字使用の「範囲」から「目安」へと性格を変え、その後にちょうどワープロやパソコンが仮名漢字変換という技術を可能としていった。「真面目」は、手書きの時代を生き抜いて、電子情報機器の時代に入ってからも、キーボードを通して入力され続けたのである。
情報化時代を迎え、このたび改定される「常用漢字表」の付表に、「真面目」は、ついに採用される方向にある(2010答申)。これについては、私の覚えている限り、少なくとも委員会内などではとくに反対もなく、すんなりと決まったことであった。
「まじめ」とその表記の紆余曲折についての話は、このくらいにして、『当て字・当て読み 漢字表現辞典』で取り上げたこれと関わりながらもう少しくだけた語について、次回からは述べていきたい。(つづく)