関西のテレビ番組で、『当て字・当て読み 漢字表現辞典』からクイズ形式で、当て字の読み方を答えさせるコーナーが放送されたそうだ。後で見せてもらったところ、「本気」に対しては「マジ」との答えが正解とされ、続けて「真剣」に対しては、漢字が得意と評されるタレントが「ガチ」と答えた。ところが、答えは「マジでした」と言われ、がっかりするというような場面があった。準備された解答を受け入れ、一問一答式を好むテレビらしさの感じられる一瞬であった。実際には、「真剣」で「ガチ」もWEBなどですでに現れている。
さて、パソコンやケータイで「まじ」を変換させると漢字表記として、「馬路」しか選べない機種が多いことは前回触れたとおりである。それらの機器を辞書のように意識する使い手によって、これが本気などを意味するマジという語の一つの表記と解釈されたり認識されたりして使われることが若年層で広まりつつある。
「馬路」は、実は、島根県大田市仁摩町にある地名「馬路」を打つために設けられた変換候補なのであろう。JR西日本の山陰本線には馬路駅(まじえき)も存在する(なお、高知県の馬路村は「うまじむら」)。ここは、
最盛期の大正期に約3000人を数えた馬路地区の人口は今では約700人。国道9号からの交差点には信号もなく、小さな看板が立つだけ。
(//hochouki.p-kit.com/page69846.html)
とのことだ。この人口が700人程度ののどかな出雲の地区の名を打つための候補が、漢字表記を変換によって得ようとする一部の若者たちの希求と合致したようだ。WEB上では少なくとも2006年には使用されていた。中学の時にケータイメールでギャル文字のように皆が使っていたとの証言もある。中学生は手紙にも使うという。WEBでは、中学生のブログにも見られる。さらに小学生がプリクラに使うとテレビで放送されたとのこと。
このように「馬路」が本気という意味で使われていることはすでに一部で知られていて、限られた範囲では非常によく使われている様子がうかがえる。ライトノベルでも「馬路(まじ)」と使うものがあるそうだ。
AKB48主演のテレビドラマ「マジすか学園」(2010)では、ヤンキーばかりの「馬路須加女学園(マジ女)」が舞台となった。ライバル校は「矢場久根女子高校」であり、不良の好む当て字というイメージを全面に打ち出している。
この「馬路」という2字を、さらにひねって「うまろ」と言い換える人たちも、WEB上に現れている。こうした二次的な加工はやむことなく、種々に試みられていく。いわゆるギャル文字で、「馬足各」と書く人も、やはりいる。
話すと面白ィし馬足各で大好き×∞なノ★
ケータイはもの凄い速さで普及した。ただ、変換機能は開発が間に合わなかったものもあったようだ。「まじ」と打つと「爻」という字が出る機種がある。この易者が使うような見慣れない漢字は、「まじわる」という訓義をもつために、語幹で「まじ」が変換ソフトに組み込まれていたのだ。もとはそれが何の役に立つのか、むしろその場で求める表記の選択を阻害する候補の一つに過ぎないものであったのであろう。しかし、それさえも、「マジ」の表記に利用されているのである。(続く)