今週のことわざ

蝸牛(かぎゅう)角上(かくじょう)の争(あらそ)

2007年12月17日

出典

荘子(そうじ)・則陽(そくよう)

意味

小さい争い。つまらぬことで争うこと。狭い世界での争い事にたとえる。「蝸牛(かぎゅう)」は、かたつむり。「蝸」のみでもかたつむりの意。

原文

戴晋人曰、有所謂蝸者、君知之乎。曰、然。有於蝸之左角、曰触氏。有於蝸之右角、曰蛮氏。時相与争地而戦、伏尸数万、逐北旬有五日而後反。
〔載晋人(たいしんじん)(いわ)く、所謂(いわゆる)(か)なる者有り、君これを知るか、と。曰く、然(しか)り、と。蝸の左角に国する者有り、触氏(しょくし)と曰(い)う。蝸の右角に国する者有り、蛮氏(ばんし)と曰う。時に相与(あいとも)に地を争いて戦い、伏尸(ふくし)数万、北(に)ぐるを逐(お)うこと旬有五日(じゅんゆうごじつ)にして後反(かえ)る、と。〕

訳文

(戦国(せんごく)時代、魏(ぎ)の恵王(けいおう)《在位、前三六九~三一九》は斉王(せいおう)を殺そうとした。暗殺するか、戦争を起こして斉を征伐するか迷っていると、宰相の恵施(けいし)が載晋人(たいしんじん)という者を王のもとに遣わし、次のように言わせた。)載晋人が申し上げた。「蝸牛(かたつむり)というものを王様はご存知ですか。」王が言った。「知っている。」戴が言った。「蝸牛の左の角(つの)には触氏(しょくし)という者の国があり、右の角の上には、蛮氏(ばんし)という者の国があります。あるとき両者が領土を争って、数万もの戦死者が出て、逃げる者を十五日間も追い続け、そのあとでようやく互いに引き揚げました。」(王は作り話か、と言った。戴晋人はこれを現実の世界にあてはめ、宇宙の広大さには現実の世界は及ばない。その現実世界の中での魏の国、その都である梁(りょう)などちっぽけな存在で、王様のやり方は蝸牛の角の上の争いと異ならないと説いた。王は説得され、戴を大人物だと評価した。)

解説

永遠無限の宇宙に比すれば、人間界の争いなどちっぽけな取るに足らぬものだというのが主旨。白居易(はくきょい)の「酒に対す」の詩に、「蝸牛(かぎゅう)角上(かくじょう)何事をか争う、石火光中(=ほんの一瞬の時間に)此(こ)の身を寄す」という句があり、この語句は直接の源となっている。

類句

◇蝸角(かかく)の争(あらそ)い◆石火光中(せっかこうちゅう)この身(み)を寄(よ)す◇蛮触(ばんしょく)の争(あらそ)

筆者プロフィール

三省堂辞書編集部